
野口悠紀雄
「米中金融デカップリング」を中国は恐れていないという見方もできる。規制で中国IT企業が米国市場で資金調達ができなくても対中直接投資や証券投資の増加で資金流入が増えているからだ。

中国の配車アプリ最大手である滴滴出行(ディディチューシン)への規制強化について、前回の本コラムでは情報流出の観点から論じた。ニューヨーク市場に上場すれば、タクシーの走行記録というセンシティブな情報がアメリカに流出する危険があるから規制したという解釈だ。

中国での大手IT企業への規制強化は経済発展にはマイナスでも共産党体制存立のために国民のデータを自らが確保するのを優先したものだ。外資の投資減少を予想しながら強権を行使した天安門事件と同じだ。

銀行の顧客データを活用して外部企業や銀行自身が新たな金融サービスを始めている。デジタル時代で店舗中心の銀行のビジネスモデルは変わらざるを得ないが、収益の基盤になるかは未知数だ。

「デジタル課税」はサービスの利用者だけがいる市場国も課税できるようにした、法人税の国際課税の原則を変えるものだ。だが節税術を駆使するGAFAなどへの課税問題がすべて解決するわけではない。

米中対立はデータの領域に及んできたが、マネーは最も強力なデータだ。今後はマネーから得られるデータをめぐっての競争と対立になるだろう。 中核となるのは中央銀行デジタル通貨だ。

米中新冷戦の下で日本は安全保障を米国に依存する一方で中国とは経済相依存関係が強く、米中どちらかの陣営に属する選択は採れない。同じ立場の韓国、豪州と連携し米中にあたることだ。

日本の消費者物価は輸入物価の動向でほとんど決まる。直近の輸入物価上昇は昨年の円高、原油価格下落の反動だ。夏には消費者物価上昇率が2%に近づく可能性はあるが、一時的だ。

中国は2027年頃には世界一のGDP大国になるが、1人当たりGDPでは50年でも首位の米国の44%の水準だ。高齢化や労働人口の減少が進む中で労働生産性引き上げをどう進めるかが課題だ。

米中対立のもとでも日本の輸入は中国の比率が上昇し,独企業も事業拡大を計画するなど中国傾斜が強まる。分厚い産業集積や市場としての重要性から「中国リショアリング」は限定的だろう。

米中貿易戦争やコロナ禍でも、中国の世界の工場や市場としての存在感はむしろ強まった。「中国依存」が進む中で世界は対中強硬策を唱える米国と連携し世界で協調できるのか、難しい課題だ。

パソコン需要急増などで起きた半導体不足に拍車をかけたのが米国の中国企業制裁だ。半導体不足は米中経済戦争時代の構造問題といえ、生産の米国内への移転は消費者の負担を増す。

ワクチン接種を証明する「ワクチンパスポート」導入の動きが世界で広がるが、日本は高齢者接種ですら混乱しパスポート発行は当面、難しい。日本人が外国に入国できない事態になりかねない。

コロナ禍、3度目の緊急事態宣言となったが、感染を十分、抑えないまま経済活動を再開し同じことを繰り返してきた。事態から脱出する切り札はワクチン接種だが、世界から大きく後れをとっている。

ワクチン接種などを証明する「ワクチンパスポート」を導入する動きが世界で広がるが、日本ではマイナンバーの活用やプライバシー保護が壁になっている。経済再開で世界に後れをとる恐れがある。

コロナ禍からの経済回復はワクチン接種の進捗と相関している面はあるが、ワクチン開発の遅れに象徴される先端分野での技術力の差や経済の低生産性こそが真の意味での深刻な問題だ。

主要国で日本がコロナ禍からの経済回復力が弱いのは、中小零細企業が店舗や設備などの固定資産を減らし供給能力に問題があるからだ。Go Toのような政策より固定資産投資の支援策が重要だ。

コロナ禍で日本は主要国では死者数や失業率は少ないのに、GDPの落ち込みは大きく、回復の力も弱い。このままでは国際的地位はさらに低下する。経済構造改革を進める必要がある。

鉄道会社の21年3月期決算は大幅な売り上げ減の見込みだが、コロナ後も「新しい日常」で、企業ではテレワークが増え出張が減り、鉄道会社の売り上げは1割程度は落ち込むと見込まれる。

企業利益の回復がいわれるが、かなりの部分は持続化給付金などによるもので、とりわけ宿泊や飲食サービス業は政府の援助で赤字を免れている状況だ。実力ベースの利益回復力は極めて低い。
