野口悠紀雄
米中貿易戦争やコロナ禍でも、中国の世界の工場や市場としての存在感はむしろ強まった。「中国依存」が進む中で世界は対中強硬策を唱える米国と連携し世界で協調できるのか、難しい課題だ。

パソコン需要急増などで起きた半導体不足に拍車をかけたのが米国の中国企業制裁だ。半導体不足は米中経済戦争時代の構造問題といえ、生産の米国内への移転は消費者の負担を増す。

ワクチン接種を証明する「ワクチンパスポート」導入の動きが世界で広がるが、日本は高齢者接種ですら混乱しパスポート発行は当面、難しい。日本人が外国に入国できない事態になりかねない。

コロナ禍、3度目の緊急事態宣言となったが、感染を十分、抑えないまま経済活動を再開し同じことを繰り返してきた。事態から脱出する切り札はワクチン接種だが、世界から大きく後れをとっている。

ワクチン接種などを証明する「ワクチンパスポート」を導入する動きが世界で広がるが、日本ではマイナンバーの活用やプライバシー保護が壁になっている。経済再開で世界に後れをとる恐れがある。

コロナ禍からの経済回復はワクチン接種の進捗と相関している面はあるが、ワクチン開発の遅れに象徴される先端分野での技術力の差や経済の低生産性こそが真の意味での深刻な問題だ。

主要国で日本がコロナ禍からの経済回復力が弱いのは、中小零細企業が店舗や設備などの固定資産を減らし供給能力に問題があるからだ。Go Toのような政策より固定資産投資の支援策が重要だ。

コロナ禍で日本は主要国では死者数や失業率は少ないのに、GDPの落ち込みは大きく、回復の力も弱い。このままでは国際的地位はさらに低下する。経済構造改革を進める必要がある。

鉄道会社の21年3月期決算は大幅な売り上げ減の見込みだが、コロナ後も「新しい日常」で、企業ではテレワークが増え出張が減り、鉄道会社の売り上げは1割程度は落ち込むと見込まれる。

企業利益の回復がいわれるが、かなりの部分は持続化給付金などによるもので、とりわけ宿泊や飲食サービス業は政府の援助で赤字を免れている状況だ。実力ベースの利益回復力は極めて低い。

2020年10~12月期に企業の営業利益が回復したのは従業員の休業手当が雇用調整助成金で賄われ、人件費負担が軽減されたものだ。雇用調整金の特例措置がなくなると回復は幻に終わる。

長期金利の上昇で日米の株価が大きく変動しているが、株価だけでなく金融・財政政策も「曲がり角」だ。金利上昇は期待インフレ率の上昇というより国債の大量発行で実質金利が上昇しているからだ。

2020年10~12月期の国内総生産が予想を超える成長率になったのは、新型コロナウイルスの感染拡大が一時的に収まり、外出が増えたからだ。感染抑制を実現すれば経済も拡大することを裏づけた。

2020年の家計調査で見ると 勤労者世帯の世帯主収入はさほど減少しておらず、「一律10万円給付金」で補う必要はなかった。しかも、ほぼ全額貯蓄に回され需要増大効果もなかった。史上空前のバラマキ政策が行われたといえる。

コロナ不況で零細企業は人員だけでなく固定資産も減らした。景気が回復し「休業者」が復職するとなっても、資本装備率が下がるので、宿泊業のように賃金が生活保護給付並みに下がる業種もありそうだ。

コロナ禍で零細企業を中心に「新型バランスシート不況」が起きている。利益が急減し固定資産を減少させて事業を縮小せざるを得ないからだ。この問題はコロ収束後も日本経済の足かせになる。

緊急事態宣言で営業時間短縮に応じた飲食店に対する1店舗当たり1日6万円の協力金は、法人企業統計からみた飲食業の経営状況から判断すると、赤字をカバーでき売上高を前年並みに補填する効果がある。

新型コロナの緊急事態宣言の再発令が11都府県に拡大されたが、営業時間短縮に対する協力金が不十分という不満や二重に支援を受ける事業者もいる不公平も目立つ。コロナ対策も総合的な再調整が必要だ。

MMTを地で行くようにコロナ対策の財政支出が国債増発で賄われているが、経済が本格回復すれば国債の市中消化は難しくなり日銀の直接引き受けを求める声が強まる懸念がある。引き受け禁止規定の厳格化が必要だ。

2021年の日本経済はコロナ感染次第で大きく変わる「不確実性」に直面する。短期の課題には複数のシナリオを持ち最悪の事態に備える用意をする一方で、デジタル化や脱炭素という長期の課題は経済全体の改革として取り組む意識が必要だ。
