野口悠紀雄
経済は7~9月期は4~6月期を底に回復したが、零細企業が多い雇用の情勢は悪化した。売り上げなどの経済全体を示す統計は大企業のウェイトが大きいために零細企業の窮状が見えなくなっている。

7~9月期の企業業績は前期に比べ改善したが、宿泊や飲食などのサービス業は売り上げや利益は大きく落ち込んでいる。零細事業者は破滅的な状況で、GoTo政策は支援が本当に必要な事業者の助けになっていない。

コロナ禍は所得分配にも影響を与えている。自営業者やフリーランサーは所得減少が大きいのに対し大手企業の正社員や公務員はほぼ変わらないばかりか、GoTo事業や給付金で補助を受ける結果になっている。

7~9月期の実質GDPは年率21%の成長になったが、輸入の減少や定額給付金による消費下支えの特殊事情によるものだ。外食や旅行需要の落ち込みは続きGDP回復力は今後、弱まる。

コロナ禍で家計収入がそれほど減っていないのに消費の減少が大きいのは消費者が感染を避けようとしているからだ。外食や宿泊の料金に介入して行動を変えようとするGoTo政策は間違っている。

直近の労働力調査で雇用者減は75万人、完全失業率は3.0%だが、雇用調整助成金で支えられる「休業者」や職を失って再就職のめどがなく「非労働力」化した非正規雇用を加えると失業率は7%近くと推計される。

コロナ対策でマネーストックが急増しているが、日本の物価は原油価格と為替レートの動向で決まるのでインフレは起きそうにない。だが大量の国債発行で日本銀行の財務状況は深刻な問題を抱える。

日本銀行のETF(上場投資信託)買い入れは株価支持政策に変質し、コロナ禍で買い入れ額は急増しているが、株式市場の価格形成を歪めるだけでなく、「ニューノーマル」で求められる日本経済の構造改革も阻害している。

コロナ禍での「1割減経済」のもとで企業が利益を確保するのは厳しい。人件費削減は賃金が低い非正規雇用者を調整弁に使うだけでは難しく、正規雇用者の削減が避けられない。他の経費でも1割削減が難しいものがある。

7月の非正規雇用者は前年から130万人減ったが、100万人近くが新たな職を得られる見込みがなく求職活動をしていない。失業率が低い裏に「非労働人口」や「追加就労希望就業者」とされる救済のない人たちがいる。

2020年の基準地価が3年ぶりに下落したのは新型コロナ感染問題で将来の不確実性が高まったことが大きい。ニューノーマルに対応した地価形成はこれからだが、地価が全般的な上昇基調に戻るのは難しそうだ。

BISが3月以降の株価反発で米国は半分近く、ユーロ圏は5分の1が金融政策の結果と分析しているが、日本は金利低下がないのに株高だ。高株価の基盤は多くの問題を抱える。

コロナ禍で「1割減経済」が長引くが、消費の落ち込みや失業率上昇が抑えられていきたのは給付金や雇用調整助成金の支えがあるからだ。だがずっと続けられるわけではない。

ドコモ口座への不正入金問題は銀行口座のパスワードを盗まれた可能性が強く、銀行の口座振替のセキュリティの甘さを露呈した。デジタル決済全般の問題として対応を急ぐ必要がある。

新型コロナウイルスの感染をほぼ収束させた中国は世界の生産や需要を支え 今後は,ワクチンを外交の武器に使う可能性もある。その存在感は高まるばかりだが、中国とどう向き合うかがコロナ後の世界の最大課題でもある。

アベノミクスは戦後2番目の長さの景気拡大を実現したが、期間中、日本経済の国際的地位は低下。企業は人件費を抑えて利益をあげたが、低生産性と非正規就業者に依存した労働市場が「負の遺産」として残った。

新型コロナウイルスの感染拡大で、世界中の経済や生活様式が激変しました。従来とはどのように違っているのか、野口悠紀雄教授が実際の統計・経済データを分析るすることで、これまで見えてこなかったコロナ後の世界を明らかにします。2020年6月3日に行われたZoomによる特別セミナーが視聴できます。

コロナ時代の「売り上げ1割減、利益3分の1減」経済を前提にすると、企業はこれから人件費削減を始め、失業率は7%を超える事態もあり得る。財源の制約がある雇用調整助成金で雇用を支える政策は見直しが必要だ。

4-6月期の実質GDPは年率で「戦後最大の落ち込み」だが前期比では欧米より減少率は低い。ただ業種や雇用によってはGDP統計では見えない深刻な事態が起きている。7-9月期以降の「V字回復」は難しい。

6月の勤労者世帯の実収入が大幅に増えエアコンや家具が売れた。コロナ対策での「一律10万円給付」があったからだが、所得が急減した世帯も多い中で一律給付の不合理が改めて浮き彫りだ。
