野口悠紀雄
2020年10~12月期の国内総生産が予想を超える成長率になったのは、新型コロナウイルスの感染拡大が一時的に収まり、外出が増えたからだ。感染抑制を実現すれば経済も拡大することを裏づけた。

2020年の家計調査で見ると 勤労者世帯の世帯主収入はさほど減少しておらず、「一律10万円給付金」で補う必要はなかった。しかも、ほぼ全額貯蓄に回され需要増大効果もなかった。史上空前のバラマキ政策が行われたといえる。

コロナ不況で零細企業は人員だけでなく固定資産も減らした。景気が回復し「休業者」が復職するとなっても、資本装備率が下がるので、宿泊業のように賃金が生活保護給付並みに下がる業種もありそうだ。

コロナ禍で零細企業を中心に「新型バランスシート不況」が起きている。利益が急減し固定資産を減少させて事業を縮小せざるを得ないからだ。この問題はコロ収束後も日本経済の足かせになる。

緊急事態宣言で営業時間短縮に応じた飲食店に対する1店舗当たり1日6万円の協力金は、法人企業統計からみた飲食業の経営状況から判断すると、赤字をカバーでき売上高を前年並みに補填する効果がある。

新型コロナの緊急事態宣言の再発令が11都府県に拡大されたが、営業時間短縮に対する協力金が不十分という不満や二重に支援を受ける事業者もいる不公平も目立つ。コロナ対策も総合的な再調整が必要だ。

MMTを地で行くようにコロナ対策の財政支出が国債増発で賄われているが、経済が本格回復すれば国債の市中消化は難しくなり日銀の直接引き受けを求める声が強まる懸念がある。引き受け禁止規定の厳格化が必要だ。

2021年の日本経済はコロナ感染次第で大きく変わる「不確実性」に直面する。短期の課題には複数のシナリオを持ち最悪の事態に備える用意をする一方で、デジタル化や脱炭素という長期の課題は経済全体の改革として取り組む意識が必要だ。

法人企業統計で宿泊業の売上高は7~9月期は4~6月期から大幅に増えたが、行動規制や営業自粛が解除された影響が大きい。GoToトラベルの効果は少なくむしろ余裕のある旅行者の補助金になった面が強い。

経済は7~9月期は4~6月期を底に回復したが、零細企業が多い雇用の情勢は悪化した。売り上げなどの経済全体を示す統計は大企業のウェイトが大きいために零細企業の窮状が見えなくなっている。

7~9月期の企業業績は前期に比べ改善したが、宿泊や飲食などのサービス業は売り上げや利益は大きく落ち込んでいる。零細事業者は破滅的な状況で、GoTo政策は支援が本当に必要な事業者の助けになっていない。

コロナ禍は所得分配にも影響を与えている。自営業者やフリーランサーは所得減少が大きいのに対し大手企業の正社員や公務員はほぼ変わらないばかりか、GoTo事業や給付金で補助を受ける結果になっている。

7~9月期の実質GDPは年率21%の成長になったが、輸入の減少や定額給付金による消費下支えの特殊事情によるものだ。外食や旅行需要の落ち込みは続きGDP回復力は今後、弱まる。

コロナ禍で家計収入がそれほど減っていないのに消費の減少が大きいのは消費者が感染を避けようとしているからだ。外食や宿泊の料金に介入して行動を変えようとするGoTo政策は間違っている。

直近の労働力調査で雇用者減は75万人、完全失業率は3.0%だが、雇用調整助成金で支えられる「休業者」や職を失って再就職のめどがなく「非労働力」化した非正規雇用を加えると失業率は7%近くと推計される。

コロナ対策でマネーストックが急増しているが、日本の物価は原油価格と為替レートの動向で決まるのでインフレは起きそうにない。だが大量の国債発行で日本銀行の財務状況は深刻な問題を抱える。

日本銀行のETF(上場投資信託)買い入れは株価支持政策に変質し、コロナ禍で買い入れ額は急増しているが、株式市場の価格形成を歪めるだけでなく、「ニューノーマル」で求められる日本経済の構造改革も阻害している。

コロナ禍での「1割減経済」のもとで企業が利益を確保するのは厳しい。人件費削減は賃金が低い非正規雇用者を調整弁に使うだけでは難しく、正規雇用者の削減が避けられない。他の経費でも1割削減が難しいものがある。

7月の非正規雇用者は前年から130万人減ったが、100万人近くが新たな職を得られる見込みがなく求職活動をしていない。失業率が低い裏に「非労働人口」や「追加就労希望就業者」とされる救済のない人たちがいる。

2020年の基準地価が3年ぶりに下落したのは新型コロナ感染問題で将来の不確実性が高まったことが大きい。ニューノーマルに対応した地価形成はこれからだが、地価が全般的な上昇基調に戻るのは難しそうだ。
