野口悠紀雄
コロナ時代の「売り上げ1割減、利益3分の1減」経済を前提にすると、企業はこれから人件費削減を始め、失業率は7%を超える事態もあり得る。財源の制約がある雇用調整助成金で雇用を支える政策は見直しが必要だ。

4-6月期の実質GDPは年率で「戦後最大の落ち込み」だが前期比では欧米より減少率は低い。ただ業種や雇用によってはGDP統計では見えない深刻な事態が起きている。7-9月期以降の「V字回復」は難しい。

6月の勤労者世帯の実収入が大幅に増えエアコンや家具が売れた。コロナ対策での「一律10万円給付」があったからだが、所得が急減した世帯も多い中で一律給付の不合理が改めて浮き彫りだ。

コロナ過で売り上げ減になった大手企業が2021年3月期の赤字見通しを公表したが、売上原価を削減する結果、仕入れ先の売り上げも減少する「連鎖」が続くと、大半の企業が利益ゼロ近辺をさまようことになる。

コロナ不況で6月の自動車輸出は前年から半減し国内販売も落ち込みが続く。自動車産業は「CASE」と呼ばれる百年の一度の環境変化に直面しているが、「新しい日常」はこの流れを加速し日本の基幹産業の姿は大きく変わる。

コロナ対応の観光支援策「Go Toトラベルキャンペーン」は東京を除外しても感染拡大の可能性がある。観光支援で人の移動を促すよりも高齢者らが安心して通院できるよう交通費を補助するなど他にやるべきことがある。

5月家計調査の勤労者世帯の実質実収入は前年から1割増えた。コロナ禍でも収入は減っていない上に「一律10万円給付」があったからだ。“過剰給付”だったことになり、本当に困った人をどう救済するかの課題は残った。

生産や小売販売が前年比で落ち込みが続く中で5月は、4月に休業していた人の4割が仕事に戻るなど、休業者数が大幅に減った。だが新たな休業者も生まれ雇用調整助成金で大量失業を免れている状況は変わらない。

5月までの貿易統計を見る限り、コロナショックによる貿易の落ち込みはサプライチェーンの分断より各国の国内需要激減の影響が大きい。生産の国内回帰が言われるが、国際的水平分業は今後も続く。

コロナ禍で4~6月期はほとんどの企業が営業赤字になる可能性が高い。より問題なのは、感染が収束しても「新しい生活様式」のもとで売り上げが元に戻るとは限らないことだ。生き残るにはビジネスモデルの転換が重要だ。

世界銀行とOECDが公表した2020年の成長見通しでは、コロナショックによる世界経済の落ち込みは史上4番目の規模だ。世界的なサプライチェーンへ悪影響のほか金融危機の可能性もあり爪痕は長期にわたって残る。

1~3月期の企業の営業利益は前年から3割以上、落ち込み、非製造業の一部は赤字だ。売り上げはそう減っていないが人件費が圧縮できすにいるからだ。4~6月期は売上高や利益はさらに悪化し多くの企業が赤字になる。

コロナ不況のもと4月の失業率の上昇はわずかだが、営業自粛で「休業者」は約600万人と推定される。売り上げ回復が長引けばこの“失業予備軍”が失業したりさらに増えたりし、政府の対策では対応しきれない恐れがある。

コロナショックで失業者は300万人を超え失業率も過去最悪になる可能性がある。3兆円規模の対策が必要で、雇用調整助成金に頼りきるのではなく政府が就業機会を作ることを考える必要もでてくる。

コロナ問題で収入や雇用について不安を感じている人は全体の3割だ。これらの人々が働くのは、もともと生産性が低く、給与水準が低い部門だ。外出や営業の自粛は日本の最も弱い部門を直撃している。

3月の家計消費調査で見る限り新型コロナ問題で収入が激減しているのは全国民の3分の1程度だ。問題の長期化が予想される中で対策は本当に困った人に集中して行われるように変えていく必要がある。

コロナ対策で国債が増発されるのは緊急時でありやむを得ない。需要が激減、V字回復も見通しにくくインフレになる可能性は低いので、中央銀行は国債購入でマネーを供給し続け企業破綻などを防ぐことが重要だ。

IMFによる新型コロナ感染の「最悪シナリオ」では2024年まで世界経済はマイナス成長が続く。ワクチンや治療薬の開発のめどがない以上、感染の第2波が起きV字回復は幻想であり最悪を意識した対策が必要だ。

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コロナ問題での緊急事態宣言に伴う政府の対策は現金給付や納税猶予に制度面で不備があるうえ,補償要求を恐れて休業要請の対象を絞るなどの本末転倒も見られ、事業者や家計の窮状を考えたものになっていない。

新型コロナウイルスの感染拡大防止で「在宅勤務」が増えているが、社内ネットワークへの不正侵入やウイルス感染のリスクが高い。米国ではサイバー攻撃の動きに注意喚起が行われており、安全対策が急務だ。
