
野口悠紀雄
アベノミクスで企業の利益が増えたといわれるが、製造業は2010年代から、売り上げが増えない「ゼロ成長産業」だ。利益の増加は円安で円建て輸出額が膨らんだのと原油価格の低下による。

景気拡大は戦後最長の「いざなみ景気」に匹敵する長さだ。アベノミクスによる円安、輸出増加が力になったという見方があるが、今回の景気拡大では製造業で輸出による売り上げや生産の拡大はみられない。

アベノミクスの成果として世帯収入や就業者数が増えていることが強調されるが、主婦がパートで働くなどの非正規の就業が増えても世帯収入が増加することは意味しない。むしろ減る場合もある。

日本企業の「給与」は規模や業種で大幅に違う格差が生まれている。他業種への労働力供給のもとになっている低賃金部門は生活保護に近い低水準だ。これが平均値で分からない日本経済の“実像”だ。

賃金が上昇しないのは、低成長によって経営不振に陥った零細企業から解雇された「低賃金労働者」が供給されたからだ。潜在的な低賃金労働者は、狭義で総就業者の5人に1人、広義だとその2倍の2800万人と推計できる。

売り上げが減って減量経営を余儀なくされた小売りや飲食業からの低賃金労働力が供給源になり賃金が抑えられ、これがまた消費停滞につながった。この「悪循環」を日銀の政策が加速する。

アベノミクスのもとで人手不足がいわれるにもかかわらず、平均賃金が上昇しないのは、経営が苦しい零細小企業が人員削減を進め、低賃金の労働力が大・中企業に供給されたのが一因と考えられる。

アベノミクスの6年間、企業利益は著しく増加した。それは、人件費の伸びが抑えられたからだ。人件費が圧迫されたのは、零細企業の売り上げが伸びなかったため人員が削減され、その労働力が大企業に移る際に非正規化したからだ。

“好景気”といえるのは大手製造業などに限られ、多数を占める零細企業の多くは利益も賃金も下がっている。高度成長期に解消されたとされる「二重構造」が復活し、「景気回復」とはほど遠い状況だ。

「勤労統計」不正調査問題で改めてアベノミクスのもとでの賃金に焦点があたるが、戦後最長の景気拡大や就業者数が増えても全体の賃金が上がらないのは、賃金の低いサービス業で雇用が増えているからだ。

「戦後最長景気」の特徴は企業利益が大幅に伸びたことだ。世界経済の拡大で輸出が伸び、売り上げが増えた一方で人件費が抑えられてきたからだが、消費は増えないまま景気はターニングポイントに近づいている。

ブロックチェーン技術を利用しサプライチェーンの取引や部品の動きを瞬時に追跡、把握し、在庫圧縮や品質を向上させる取り組みが物流業界で進む。書類での記録が中心の物流業界を一変させる可能性がある。

アベノミクスで賃金が増えたと首相が強調する「総雇用者所得の増加」は、配偶者特別控除の拡大で女性や非正規の就業者数が増えたことが大きい。それで平均賃金は下がり消費が伸びないことこそが問題だ。

117回
勤労統計の不正調査問題で、厚労省や野党が出した再集計値などでどれが適切かは議論の余地があるが、どのデータでも実質賃金が下落している。これこそがアベノミクスの評価で最も重要な点だ。

毎月勤労統計の「不正調査」で深刻なのは、賃金の過去データが「消失」したことだ。実質賃金などの推移が分析できず、今年、予定されている年金の財政検証は「虚構の値」でせざるを得なくなる。

人口減少は、労働力不足を招き、また保険料などの負担者が減ることで社会保障制度の維持を難しくする。だが日本では現実離れした賃金の上昇を仮定するなど甘い経済見通しが深刻な問題を覆い隠している。

AIの画像認識能力が高まれば新聞紙面からもウェブ上の動画など、さまざまな情報が得られる。新聞がウェブ世界の「入り口」になることで紙面が変わり、印刷媒体とネットとの新しい役割分担が生まれる可能性がある。

スマートフォンで最先端の画像認識技術が使えるようになりウェブサイトへの誘導が簡単になった。広告のビジネスモデルを大きく変える可能性があり、リアルな空間や印刷物の価値を高めるだろう。

AIの進歩でパタン認識技術の実用化が進み「Googleレンズ」では自動翻訳や名刺情報の管理などができるようになった。スマートフォンを通じて使えるようになり人々の生活を大きく変える可能性がある。

GAFAに代表される大手プラットフォーマーが優先的地位を乱用したりするのを独禁法で規制することが検討されているが、プロファイリングされた個人情報が勝手に使われるなど、独禁法で対処できない問題がある。
