
野口悠紀雄
年金改革ではマクロ経済スライド強化による年金額の圧縮や、支給開始年齢の引き上げなどの議論があるが、政治的な難しさや世代間公平の問題がある。老後を年金だけに頼らずにすむよう就労年数を延長するのが最善の策だ。

急速な少子高齢化のもとでも年金制度が維持されるとしてきたのは、物価や実質賃金の上昇率を高く仮定しているからだ。この財政検証の“トリック”が実現できなくなり、支給開始年齢引き上げが不可避だ。

雇用延長の議論の背景には、非現実的な成長や賃金の見通しを前提にした「年金財政」の事情がある。年金支給開始年齢を70歳に引き上げないと、「現在の保険料率で100年安心」とはとてもいかないからだ。

株価が27年ぶりの高値をつけたのは、企業の生産性が上がったからではなく、円安で売り上げがかさ上げされる一方で労働分配率が低下したからだ。円安は外的な要因からで株価上昇も続く保証はない。

現実的な見通しとして、物価上昇率2%は、いつになっても達成できない。すると金融緩和について「任期中に脱却」という安倍総理の発言と、「2%達成まで脱却しない」という黒田総裁の発言とは、矛盾することになり、金融政策の先行きについて見通しがつかない。

政府は返礼品競争が過熱するふるさと納税制度の規制強化を打ち出したが、そもそも制度自体が地方自治や地方税の原則から外れ、寄付の崇高な精神を破壊するものだ。見直しではなく廃止すべきだ。

高齢者が働くと損をするのは、医療や年金だけでなく介護保険でも同じだ。高齢者の就労促進をいいながら矛盾している。恵まれた高齢者に負担増を求めるなら資産で自己負担率などを決めるべきだ。

高齢者の就業率を引き上げることが社会的な課題になっているのに、医療保険でも高齢者が働くと過大な自己負担を強いられ、破滅する恐れさえある。自己負担制度を見直すことは不可欠だ。

「骨太2018」で、働くと年金の一部、場合によっては全額が支給停止される在職老齢年金制度の見直しが掲げられた。高齢者の働く意欲をそぐだけでなく高齢者の賃金を低く抑えている可能性もあり、廃止すべきだ。

自民党総裁選が迫るが、このままでは経済政策、中でも消費増税が議論されない可能性がある。「3回目の先送り」となれば、財政赤字が2027年度には内閣府試算より5割以上増え60兆円近くになる。

異次元緩和からの脱却を事実上、進める日銀が金利抑制を続ける新手法を導入したのは、金利抑制をやめれば金利が暴騰する懸念からだ。名目長期金利が物価上昇率プラス1%程度まで上昇する可能性がある。

岡山県の村が仮想通貨を売り出して事業資金を調達する計画を発表した。ブロックチェーンを用いて収益力のある事業ができるかがポイントだが、ふるさと納税より健全な自治体の財源調達手段になる可能性がある。

需給ギャップがプラスになったのに賃金が低迷しているのは、産業構造の問題だ。生産性が高く高賃金の分野の就業者を増やせば、賃金は上がる。金融政策の守備範囲ではなく緩和政策は意味がない。

米国と違い日本の消費者物価が上がらないのは、生産性が高く専門的、科学技術的な高度サービス産業が登場していないからだ。これは日本経済が抱える基本的な問題であり金融政策では実現不可能だ。

米中貿易戦争で「痛手」を受けるのはどこなのか。経済では中国の方がより影響を受けそうだが、最も大きな被害を受けるのはアジア諸国だ。一方で政治的には同盟国の信頼を失った米国の打撃は少なくない。

物価目標を掲げていることで日銀は、原油価格の動きやIT化の成果でも「奇妙な論理」を展開せざるを得ない立場になっている。日銀は7月の政策決定会合で、物価目標自体をを撤廃すべきだ。

昨年末のピークの三分の一に下落したビットコインの価格が再び暴騰することはないだろう。投機で儲けよういう人には不都合だが、安い送金手段として期待されていることを考えれば歓迎すべきことだ。

森友問題での公文書改ざんは処分で終わりではない。問題を忘れられないうちに文書管理にブロックチェーンを導入する再発防止策の検討を始めることだ。エストニアに続き英国で実証実験が始まる。

大手IT企業がAIやビッグデータの最先端技術を武器に金融業に進出する動きが加速している。中国ではすでにIT企業がフィンテックの主役だ。日米でも伝統的な金融業の世界を大きく変える可能性がある。

会社の定款を認証する公証人制度は時間やコストがかかり起業がしにくい一因とされてきた。だが公証人をブロックチェーンに置き換えれば問題は解決する。技術革新で旧い既得権益を壊すことができる。
