
鈴木明彦
ロシアがウクライナ全土への侵攻を始めたことは、2014年のクリミア併合と比べ、世界に与える影響は、はるかに大きい。経済に与える影響も深刻だが、一般的に安全保障の問題は経済に優先する。こうした地政学リスクは、これからもさまざまな形で表れそうだ。ロシアがウクライナを侵攻した背景として両国の歴史的な変遷を振り返るとともに、ソ連崩壊後のロシアの戦略や、安全保障を米国に依存し続けてきた日本の今後の在り方を論ずる。

「悪いインフレ」、「悪い円安」という言葉がよく使われている。しかし、デフレ脱却と円高阻止をスローガンにしてきたのに、円安が進んで、物価も上がりそうになると、これは悪いインフレ、悪い円安と言い出すのは、ふざけた話だ。悪いインフレ・悪い円安論の致命的な欠陥を指摘するとともに、2013年に出された政府・日銀による共同声明から、日本経済にとって好ましいデフレ脱却の在り方を提示する。

昨年秋頃、かなり抑制されていた新型コロナの感染者数は、年末に向けて徐々に増加に転じ、年明け早々増加ペースを一気に上げている。日本も感染拡大第6波に飲み込まれた。日本で第5波が深刻になった一方で、第6波は今年に入るまで抑制された理由や、第6波がピークを迎える時期を過去の感染拡大から推測。アフターコロナを迎えるまでウイズコロナを続けるための政策対応を考察する。

新型コロナ対応の金融支援特別オペなどの縮小が決まった。消費者物価がじわり上昇する中で市場は日銀が量的緩和自体の縮小に踏み出すと受け止め、長期金利上昇の引き金になる可能性がある。

テーパリング開始観測が浮上するFRBと比較し、2%の物価安定目標を達成できない日銀の金融政策は評判が悪い。しかし日米の消費者物価を比較すればわかるが、金融政策で後手に回っているのはFRBであり日銀ではない。日銀がすでにテーパリングに着手していることをマネタリーベースなどから読み解くとともに、日本のインフレの勢いが増してもマイナス金利政策が続く可能性や、日銀が実質的な利上げを可能とする手法を解説する。

FRBがテーパリング開始を決めたが、YCC導入以降、さまざまな形で緩和長期化の仕掛けを入れてきた日銀は、無理に金融政策正常化の「出口」に向かう必要はなくなっている。“テーパリング”もすでに始めている。

政府は、10月の月例経済報告で、景気の現状を「持ち直しの動きが続いているものの、そのテンポが弱まっている」と判断している。ただ、景気は持ち直しどころか、足踏みから後退に転じている。9月の景気動向指数の一致・CI系列も、3カ月連続で低下し、基調判断は「改善」から「足踏み」に下方修正される見込みだ。なぜ政府の景気判断が的確になされないかを明確に指摘し、景気判断に対する国民の信頼を取り戻すために求められる首相の姿勢を提示する。

米国が離脱して11カ国でスタートした環太平洋経済連携協定(TPP)に中国と台湾が相次いで加盟を申請した。日本の外交にとって中台両国のTPP加盟申請は、中国・台湾間の緊張が高まっているだけに、難しい問題となった。中国と台湾の加盟申請に対して、日本政府のスタンスは、台湾の加盟申請については歓迎、中国についてはTPPの高い自由化度を満たす用意ができているかしっかり見極める、と温度差がある。しかし、日本のこうしたスタンスが、TPP加盟国のコンセンサスではない。中国にとってTPP加盟申請の狙いを考察するとともに、米国への依存度が高い日本の外交のあるべき姿を提示する。

消費者物価指数は前年比で低下が続いているが、政府の政策で影響を受ける度合いが強い。実際、政策要因を除くと景気動向を反映し変動している。物価は上がりにくくなっているが上がっている。

第5波の感染拡大によって、人口規模との比較で見た日本の感染状況は、世界平均を大きく超える厳しいものとなった。ワクチン接種がさらに広がれば、感染抑制効果が出てくると期待されているが、新たな変異株が次々と現れている状況を考えると、日本の感染者が劇的に減少すると期待するのは難しそうだ。コロナとの戦いの長期化が避けられない状況のなか、景気の先行きをすべてコロナで説明しようとする際の落とし穴を指摘するとともに、足元の経済指標から日本景気が後退入りするリスクを検討する。

昨年4月7日に最初の緊急事態宣言が出されて以降、宣言の解除と再発令が繰り返されている。緊急事態宣言は、本来は感染が拡大される前に予防的に発令され、感染が十分におさまってから解除されるべきものだ。しかし、新規感染者数の推移と緊急事態宣言のタイミングを検証してみると、感染がかなり拡大してから宣言が出され、感染拡大前の水準に戻らないまま解除されている。世界各国のコロナ新規感染者数や消費動向指数の動きから、緊急事態宣言の効果が弱まっていることを示唆し、長期化するコロナとの戦いに日本政府が重視すべき考え方を提唱する。

4度目の緊急事態宣言が出されて約2週間たつが、新型コロナウイルスの感染再拡大の勢いは止まらず宣言の効果が疑われる。結局はワクチン接種の進捗(しんちょく)しか感染抑制手段がないことがはっきりしてきた。

原油を初めとして国際商品市況が上昇し、アフターコロナを見据えた景気回復観測もあって、海外ではインフレ懸念が高まっているが、日本の消費者物価は上がらない。しかし日銀のアンケートによると、物価が上昇しているとの回答が多い。人々が物価上昇を実感する理由や、政府・日銀と人々との間の認識ギャップを考察する。

4月25日の東京、大阪、京都、兵庫を皮切りに、1都2府1道6県に出されていた緊急事態宣言は、沖縄を除いて期限の6月20日で終了した。ただ、宣言が解除されたのは、7月23日から始まる東京オリンピック・パラリンピックを予定通り開催するためと考えられる。今さら延期や中止といった判断は、現実的な選択肢ではなくなっていた。今回の宣言解除によって、オリンピック開催は動かせないものとなった。日本の新型コロナ感染者数が減少に転じた理由を分析するとともに、ワクチン接種とオリンピック開催という両立が難しい2つの目標を掲げる政権・与党にとって最善の策を考える。

緊急事態宣言が再延長されたが、このままではワクチン接種が終わっていない状況で東京五輪の開催を迎える。コロナと五輪の「二正面作戦」はコロナと経済の両立失敗と同じ轍を踏む恐れがある。

新型コロナウイルスの感染第4波が猛威を奮っている。日本でも1日の新規感染者数が7000人を超える日があるなど、昨年終わりから続いた第3波と同じような感染拡大となっている。新型コロナウイルス感染者数を地域別に整理し、第3波までの結果と第4波の違いを明らかにするとともに、東京オリンピック開催の是非を考える。

日本のコロナ対策はあまり評判がよくないが、欧米の国々と比べれば明らかに感染は抑制されており、経済成長率のマイナス幅も小さい。しかし、ワクチン接種に出遅れるなど、今後、日本のコロナとの戦いは厳しさが予想される。日本でワクチン接種が本格化するタイミングで、東京オリンピック・パラリンピックの開催が予定されている。ワクチン接種とオリンピック開催の両立の是非について、考えてみよう。

デフレとの戦いは20年を迎えたが、コロナ禍で日銀は強力な緩和手段を持ちマネーストックも拡大し始めた。だがそれでも物価目標実現は難しく、今回の政策見直しもそれを意識したものだ。

日本銀行は3月の金融政策決定会合で、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検を行い、その結果を発表した。日銀が示した対応は数多いが、それぞれの制度のルールが複雑なこともあり、一般には日銀の狙いが見えにくい。長年シンクタンクで活躍しているエコノミストが、日銀が打ち出した新しい制度を端的に解説するととともに、その裏に隠れた日銀の「真の狙い」を浮き彫りにする。

日本銀行の「金融緩和の点検」では長期金利の変動の活性化やETFの機動的買い入れの観測が先行したが、政策金利のフォワードガイダンスの強化などで、デフレと戦う姿勢を示すことが本丸と思われる。
