
鈴木明彦
3月か4月のいずれかの金融政策決定会合で、日銀がマイナス金利の解除など異次元金融緩和の出口を抜けるとの見方が強まっている。今年の賃金改定状況を考えれば、日銀によるマイナス金利解除は既定路線だろう。賃上げだけでなく物価や景気を確認するためにも、日銀によるマイナス金利解除のタイミングは3月ではなく4月の可能性が高いことや、3月の金融政策決定会合で期待すべきは、現状維持に対する委員からのマイナス金利解除の議案提出であることを指摘する。

日銀が目指す「デフレ脱却」は物価下落を解消するだけではなく、賃金を含めた人への投資や研究開発投資で稼ぐ力を強め、新たな価値創造に相応の価格が付いて経済が回る「成長型経済」への転換だ。その環境作りや支援のためゼロ金利政策を軸にした緩和政策が物価目標達成後も続く見通しだ。

1月の金融政策決定会合でのマイナス金利解除は見送り。物価上昇率のピークアウトが見込まれることから、マイナス金利解除は難しいとの見方もある。しかし日銀は、これを承知したうえでマイナス金利解除を目指そうとしている。植田総裁のこれまでの発言を紐解くことで、4月の決定会合までにマイナス金利を解除するのが日銀の描くシナリオであることを指摘するとともに、これまでの金融政策の修正でYCCやマイナス金利はすでに骨抜きになっていることを解説し、マイナス金利解除後は、ゼロ金利政策という金融緩和が続くことを展望する。

日本銀行の植田和男総裁は、昨年(2023年)12月の金融政策決定会合後の会見で、基調的な物価上昇率が徐々に高まっていく確度は引き続き高まっているとしたうえで、賃金と物価の好循環を今後も見極めていく必要があるが、インフレ率が低下を続けることで実質賃金が好転する見通しが立つのであれば、足下で実質賃金が低下していても出口の判断は可能という趣旨の発言をした。ただし、市場関係者などからは今年(2024年)早々にマイナス金利政策の解除とした出口戦略を決断することはないとの見方が多い。足元の経済状況と植田総裁の発言内容を考慮し、今年早々にも日銀が出口判断を示す可能性があることを示すとともに、出口判断の後に予想される金融政策のあり方を明快に提示する。

日銀は来年1月の金融政策決定会合で異次元緩和の終了を決める可能性が高く、その後はゼロ金利の下での時間軸政策で市場実勢に委ねながらも緩和策を続ける見通しだ。だがその先、利上げに転じるとなれば日本経済の成長力強化に加え日銀保有国債の圧縮、2%物価目標見直しが必要だ。

岸田首相は、インフレの悪影響を防ぐために物価高対策を打ち出しているが、そこでもデフレ脱却というスローガンを使っている。しかし、デフレ脱却という言葉が意味するところは、物価動向の変化に合わせて変わってきている。デフレ脱却の意味の変遷を振り返りながら、岸田首相が掲げるデフレ脱却がアベノミクスと180度違うことを説明するとともに、岸田首相が言うところの「稼ぐ力」を強くするためには、政府ではなく民間セクターがカギとなることを指摘する。

植田和男総裁が率いる日本銀行の出口戦略は、単に「異次元金融緩和」からの脱却だけではない。「非伝統的金融政策」そのものからの脱却を目指している。今年7月以降、イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用柔軟化を進めるなど、すでに異次元金融緩和の出口に近づきつつある。

日本銀行は10月の金融政策決定会合でイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用のさらなる柔軟化に踏み切った。ゼロ%程度という10年金利の誘導目標は維持しているが、今回の政策変更は事実上の長期政策金利の引上げと考えるべきだろう。日銀が短期ではなく長期の政策金利引き上げに踏み切った理由に加え、2度にわたるYCC運用の柔軟化の狙いや、日銀が異次元金融緩和の出口を抜けるのに慎重になる理由を明快に解説する。

消費者物価上昇率がずっと「2%物価目標」を超えているのに金融緩和が続くのは、円安加速やインフレ高進の状況は政策変更のタイミングには適さないと日本銀行が考えているからだ。緩和の「出口」は早くて来年1月か4月と予想される。

政府と日本銀行の共同声明(アコード)の実態は日銀に2%の物価目標を掲げさせ、異次元金融緩和を迫るものであった。しかし足元では2%を超える物価上昇が続いており、異次元金融緩和の終了は視野に入っている。異次元金融緩和を終わらせた後に必要となる新しいアコードの考え方を示すとともに、2%に変わる新たな物価安定目標を提示することの重要性を語る。

岸田首相も経済界に賃上げを求めるなど、いまや「物価上昇に負けない賃上げ」が「デフレ脱却」に代わる国を挙げてのスローガンになった感もある。人件費が抑えられ、労働分配率の低下が続いていたことが日本経済の活力を削ぐ要因の一つであったとすると、ここにきての賃上げムードの広がりはポジティブに評価すべきだろう。しかし、物価が上がったから賃金も上げましょうというのでは、物価に合わせて賃金を決める従来型の組合交渉のスタイルが、インフレとともに復活しただけだ。物価上昇とともに賃金を引き上げることの問題点を指摘するとともに、目指すべきは価値の拡大と、価値の拡大に見合った所得の上昇であることを解説する。

日銀が「YCC柔軟化」に踏み出したことで今後の緩和政策の修正を予想する声があるが、植田日銀は金融緩和の「出口」を急ぐのではなく「多角的レビュー」を通じて非伝統的金融政策自体を終わらせることを考えているように見える。

日本銀行は7月の金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用の柔軟化を決定した。ただ、今回の柔軟化は、昨年12月に0.5%に拡大した変動幅を単純に1.0%に拡大するものではない。そんなことをしても、10年金利は1%水準まですぐに上昇し、副作用の発生は抑えられない。YCC運用の柔軟化を決めた日銀の狙いや、今回、設定された「目途」を日銀は「めど」と使い分けている理由などを平易に解説するとともに、柔軟化がうまく機能した後に展開される将来の金融政策が実質的に時間軸政策付きのゼロ金利政策に近づき、植田総裁が混乱必至な出口戦略に挑戦しなくても、異次元金融緩和を実質的に終わらせる「マジック」に挑戦している可能性を指摘する。

7月27、28日に開催される金融政策決定会合では、7月の経済・物価情勢の展望(展望レポート)が発表される。そこで日銀の物価見通しが上方修正される見込みだ。今年度半ばにかけて前年比プラス幅が縮小するという日銀の見通しは維持されるとしても、2%の物価安定目標達成に向けて大きく前進することになる。このため、イールドカーブ・コントロール(YCC)は、見直すべきという意見が強まっているが、植田総裁は金融政策を大きく変更する意向はないようだ。植田総裁が出口戦略を急がない理由を、同総裁が審議委員の時に身をもって体験した「トラウマ」から読み解く。

物価上昇が2%物価目標を超える状況は1年以上、続いている。日本銀行は、世界経済減速の影響を注視しつつ早ければ7月展望レポートで物価目標達成を宣言、異次元緩和策の修正に踏み出す可能性がある。

日本銀行は、4月27日・28日の金融政策決定会合において、5年近く掲げていた政策金利のフォワードガイダンスを当面の金融政策運営の発表文から外した。政策金利のフォワードガイダンスが残っていると、政策金利引き下げの思惑が出てきやすいので、あらかじめ政策金利のフォワードガイダンスを外しておくことが、ゼロ金利政策復帰への地ならしになりうる。しかし、フォワードガイダンスの英語訳を読むと、緩和方向の金融政策運営を強く示唆しているという日銀の説明が理解できる。日銀のホームページに掲載されている英文資料を日本語資料と読み比べることで、政策金利の位置づけが日本語と英語とでは異なることや、政策金利のフォワードガイダンスにおける日本語版と英語版の乖離が広がってきた経緯などを明快に解説し、フォワードガイダンス削除の真の意図を考える。

植田和男・日本銀行総裁の就任後初となる金融政策決定会合では、デフレが始まった1990年代後半以降の金融政策運営について、1年から1年半程度の時間をかけてレビューを行うことが決まった。一方、異次元金融緩和の副作用も念頭に置いた金融政策の変更は、このレビューとは関係なく行われる。初回の金融政策決定会合でも植田総裁流の政策の見直しが始まっている。今回の金融政策決定会合で発表された声明文の真意を明快に解説するとともに、10月の経済・物価情勢の展望(展望レポート)で物価目標を達成したという判断を示す可能性があることを指摘する。

植田日銀総裁は物価目標達成には時間がかかることを理由に緩和維持を表明したが、YCCが国債市場の乱高下を招きやすい点は問題視していた。物価目標未達成の段階でも長期金利の安定のためYCCの運用柔軟化や時間軸強化はやる可能性がある。

黒田東彦・前日銀総裁は、3月10日の定例記者会見で、10年間の金融政策について自己評価をした。同氏は、大規模な金融緩和によって経済は大きく発展し、物価が持続的に下落するという意味でのデフレではなくなったと述べるなど、終始、自画自賛の姿勢を保った。しかし量的・質的金融緩和では、マネタリーベースを2倍にすることはできても、消費者物価を2%上昇させるロジックが欠落していたなど問題点も多い。また任期終了間際に、人々のインフレ期待を高めることができるという信念に基づき、金融緩和を続けた。黒田前総裁による金融緩和の問題点を改めて整理するとともに、植田新総裁に残された”負の遺産”を明快に解説する。

10年以上にわたって日銀総裁を務めた黒田東彦日銀総裁が退任し、4月から植田和男氏が新しい日銀総裁に就任する。そして、日銀総裁の新旧交代に合わせて、黒田現総裁の金融緩和の柱となった「政府・日本銀行の共同声明(以下、アコード)」を見直すべきではないかという意見が出ている。現在のアコードが決まった経緯を平易に説明するとともに、アコードによって日銀の金融政策運営が縛られてしまったことや、アコードを見直すべきではなく終了させるべき理由を解説する。
