
鈴木明彦
植田新総裁の日銀審議委員時代の言動から判断すると、マイナス金利政策や量的緩和には懐疑的と思われ、当面は金融緩和継続を言いながら、ある時点で物価見通しを修正し伝統的な金利政策に転換するとみられる。

22年12月の消費者物価(除く生鮮食品)は、前年比4.0%上昇し、9カ月連続で2%の物価安定目標を超えている。23年1月は4%台半ばの上昇になりそうだ。春以降も大幅な料金引き上げが見込まれている。日銀は、デフレ脱却を宣言してもおかしくない状況だが、黒田総裁は、デフレはまだ脱却してないという見方を続けている。黒田総裁がデフレ脱却を宣言しない狙いを解説するとともに、デフレ脱却に代わる新しいスローガンとなりつつある「物価上昇に負けない賃上げ」に潜む”危うさ”を指摘する。

日本銀行は、昨年12月20日の金融政策決定会合において、誘導目標である10年国債金利の変動幅を0.5%に拡大した。この決定は、日銀の金融政策の転換点になるとの評価もあるが、これは通過点と考えた方がよさそうだ。2013年4月の黒田総裁登場とともに始まった異次元金融緩和の歴史を振り返ることで、昨年12月の金融政策の修正の真の狙いを解説するとともに、いわゆる異次元緩和が真の意味で終わるための条件を提示する。

日銀のYCC政策の長期金利誘導の上限引き上げは、国債市場などの異常な機能低下への批判の強まりから変更は時間の問題だった。金融緩和是正の第一歩の可能性もあるが、黒田総裁のもとでは「打ち止め」だろう。

日銀は、2年以内に2%の物価安定目標を達成するという短期決戦を想定したが、その目論見は見事に外れ、いつ終わるともしれない資産の膨張が始まってしまった。日銀が、資産膨張を食い止めるための苦心策を時系列で説明することで、現在の日銀の金融政策の問題点を指摘するとともに、インフレ下での金融緩和という黒田総裁の決断を「危険な賭け」と論ずる理由を解説する。

円安は一服感が出ているが、2%物価目標を上回る物価上昇が続いている。為替を理由にした政策修正はしにくかった日銀には、物価目標達成を理由に政策修正をする道が開けてきた状況だ。

日銀の黒田総裁は、10月の金融政策決定会合後の会見で、2%の物価安定目標の実現を目指し、これを安定的に持続するため現在の金融緩和を続けるという基本方針を改めて確認した。世界中がインフレで悩む中、日銀だけがデフレを心配する理由を推察すると同時に、日銀による金融政策を正常化するタイミングは今であることを力説する。

円安阻止で日銀が金融緩和政策を利上げに転換することはなさそうだ。だが消費者物価が4月から連続して2%物価目標を達成し物価情勢が上振れするなか、異次元緩和の"出口"戦略はすでに進められている。

黒田総裁は、9月21・22日の金融政策決定会合終了後の会見で、政策金利などの金融政策の変更は当面ないという従来からの主張を繰り返し、当面とは「2~3年の話」と示した。しかし、これまで政府や日銀が当面という言葉を使う時は、3カ月からせいぜい半年程度を指すとされていた。来年3月には任期が切れる黒田総裁が、2~3年先の金融政策に関与するはずもないと割り切ることは可能かもしれないが、金融政策の一つであるフォワードガイダンスに注目し、これまでのフォワードガイダンスの変遷から、日銀の金融政策の移り変わりを確認し、今後の金融政策において微調整がなされる可能性を展望する。黒田総裁の最近の発言は、これまで以上に「不規則な」内容が多く含まれるようになり、今後の金融政策を占う上で重要なヒントが隠されているようにもみえる。

7月の消費者物価(全国、除く生鮮食品)は前年比+2.4%と、4月から4カ月連続で2%の物価安定目標を達成している。8月は、1年前の携帯通信料引き下げの影響が剥落するため、物価上昇率は2%台後半に入ってきてもおかしくない。持続性がなく、賃金の上昇を伴っておらず、期待されていたデフレ脱却ではないなどと、評価はあまり芳しくないが、消費者物価が持続的に2%の物価安定目標を実現している以上、金融政策がいつまでもデフレ脱却のための緩和を続けているという説明は通りにくくなる。

日本のインフレが緩やかなのは原材料コスト上昇分の価格転嫁が抑えられてきたからだが、それも限界になり企業の価格戦略が変わり始めている。インフレは欧米で峠を越えても日本は“価格転嫁のマグマ”が残っており長引きそうだ。

7月19日に景気動向指数研究会が開催され、景気を把握する新しい指数の検討状況について報告された。新しい指数作成の基本方針を解説するとともに、政府が新しい指数を検討する真の狙いを、過去の景気判断における政府の対応を振り返りながら考察する。

日銀は7月の金融政策決定会合でも「緩和維持」を決めたが、黒田総裁の発言からは金融緩和の出口を考え始めているいくつかの示唆が垣間見える。早ければ今秋以降に政策変更に向けた動きが出る可能性がある。

円安・物価上昇に「緩和維持」を続ける日銀だが、マネタリーベースは着実に縮小させており、「量的引き締め」開始は秒読み段階だ。2%台の物価上昇が続く秋には政策修正の可能性がある。

円相場は、1ドル=140円に近づこうとしているが、それでも円安の流れが止まらない。1985年のプラザ合意以降の円高の流れは、2011年までで終わったと考えるべきと主張する日本経済分析のエキスパートが、円安が進む2つの要因を解説するとともに、円安是正のための「利上げ」に効果は薄く、日本で過った政策論が繰り返される理由を指摘する。

中国は、日本や韓国など計15カ国からなる「東アジア地域の包括的経済連携」(RCEP)に参加。東アジア地域を代表するメガ自由貿易協定(FTA)となり、中国の存在感は一段と高まる一方、環太平洋地域での米国の存在感は低下している。しかしバイデン米大統領来日時に日米豪印首脳会合(QUAD)が開催。米主導でインド太平洋経済枠組み(IPEF)の立上げに関する首脳会合が開かれるなど米国の巻き返しの動きも出ている。IPEF誕生を機に米国が離脱したTPPの目指すべき姿を考え直す。

物価上昇でも日銀は「デフレ脱却」の緩和政策を続ける構えだが、次は「スタグフレーションとの戦い」が予想され、2%物価目標の見直しとともに資産圧縮とマネタリーベース縮小に手を付ける時だ。

景気動向指数の基調判断は、2月の景気動向指数の改訂値が発表されたときに「改善」に修正された。これまで、景気動向指数の基調判断は速報値だけで発表され、改訂値で見直すと速報段階と異なる判断が出てくるような場合であっても判断が見直されることはなかった。改訂値で判断を見直すということになると、その後の判断にも影響が出てくる。景気動向指数の基調判断を改訂値によって変更する問題点を具体的に指摘するとともに、景気動向指数のCIとヒストリカルDIという二つの視点から、日本景気の現状を確認し、今後の日本景気の方向性を論ずる。

日本の物価環境は、新型コロナ対応に乗り出した2020年春頃と今とで大きく変わった。物価が2%を超えて上昇しようという時に、物価を2%上げるための金融緩和を続けるというのは無理がある。政府の物価高対策や日銀短観の結果をもとに、日銀は今こそ金融政策の修正を目指すべきことを解説し、新しい物価目標のあり方を提言する。

欧米ではウクライナ危機でインフレが加速する懸念が強まる。日本は物価が落ち着いている間にデフレ脱却で掲げられた非現実的な「2%物価目標」を「0~2%」とし物価の上限を位置付けるものに見直すべきだ。
