
長井滋人
日本経済に対する海外の関心が加速的に低下しており、日本は、じり貧を続ける「かつての経済大国」との見方が定着している。一方で、日本は、財の輸出ではなく資本の輸出で稼ぐ「資本輸出国」へ目覚ましい変化を遂げつつある。経常収支の構造変化を確認するとともに、証券投資や直接投資の収益率を高めながら、日本が成熟した資本輸出国に生まれ変わるための課題を提示する。

米国のインフレ率高騰がどれだけ続くのか議論が白熱している。鍵を握るのは、今後賃金と物価との上昇スパイラルに発展していくかだ。注目すべきは労働者による自主的な離職の動きで、2021年9月に過去既往最高の3.0%に達した離職率は止まる気配がない。

世界的にインフレ懸念が高まる中、不動産投資信託(REIT)などの不動産関連資産に注目が集まっている。しかし不動産投資のリターンはインフレだけで決まるわけではなく金利や不動産に対する需要の強弱にもよる。マクロ経済分析で世界的な評価を得るリサーチ会社が開発したマクロ経済分析の結果をもとに、2022年の不動産投資のリターン予測を紹介するとともに、不動産投資のリターンが経済環境によって異なることを解説する。

世界各国は、脱炭素と経済成長の両立を目指し、各種戦略や長期計画を打ち出している。日本も昨年10月に「2050年カーボンニュートラル」が宣言され、12月にはグリーン成長戦略が打ち出された。ただ、脱炭素と経済成長の関係について、成長の起爆剤と位置付ける楽観論もあれば、成長を犠牲にするとの悲観論もある。マクロ経済学の視点から脱炭素と経済成長の関係を楽観・悲観の両面から整理・解説し、政府の役割の重要性を指摘する。

脱炭素に向けた取り組みが本格化し、各国政府は競うようにグリーン投資を起爆剤とする成長戦略を打ち出している。ただ、何十年もかかる移行期間に予想される莫大なコストを上回る成長への押し上げを実現することは決して容易ではない。

アベノミクスは、成長と物価を狙い通りに引き上げることに失敗した。導入当初こそ大規模な金融緩和と行き過ぎた円高の是正で企業利益や株価、人々のセンチメントを一時的に押し上げたが、その勢いは続かなった。長続きしなかったのは、企業利益の改善が家計を潤し、消費など内需の活況が企業収益をさらに押し上げるという好循環が生まれなかったためだ。好循環が生まれなかった理由を家計所得と保有資産の2つから考察し、日本におけるリフレ政策の限界を明確に提示する。

資産価格の急回復で、米国の家計が保有する資産は急拡大した。家計資産の急増は、いわゆる資産効果を通じて個人消費を大きく押上げ、コロナ禍からの経済の立ち直りを支える大きな援軍となる。その一方で懸念されるのは、家計資産の急増がコロナ前から問題となっていた経済格差を一段と悪化させていることだ。米家計が保有する資産を所得階層別に分析するとともに、今後の景気回復と経済格差拡大の行方を探る。

コロナ禍からの実体経済の回復のもたつきとは対照的に、既往最高値を更新する米国株価を筆頭に資産価格全般の好調さが目立つ。金融危機で大きく下落した住宅価格も例外ではない。2012年ごろにボトムを付けた後は上昇基調に転じ、コロナ禍の下でむしろ伸びが加速している。

米中対立の激化で、米中経済の切り離し(デカップリング)の脅威が一段と高まっている。中国は、国家主導でデジタル分野を中心とした次世代産業の覇権を握ろうとしているが、米国は中国に対する危機感を強めている。米中デカップリングの行方は、米中ともに重要な経済パートナーである日本にとっても重要なテーマだ。長期にわたり高い精度で予測ができる人口動態から、米中の対外純資産の行方を予測する最新研究の結果を紹介し、その結果から想定される米中デカップリングの行方を考える。

6月の米非農業部門雇用者数は、市場予想を上回る85万人の雇用増となった。しかし就業者数は依然としてコロナ前の680万人に及ばない。今後の雇用回復ペースは、景気を牽引する消費の持続性を左右する。雇用回復を妨げる労働供給の制約や労働市場からの復帰を阻む4つの要因を紹介するとともに、雇用の急改善を受けて、FRBがテーパリングを開始する時期を考察する。

ワクチン普及に伴って、コロナ後の経済の姿を巡る議論が盛んになっている。特に懸念されているのは、コロナ禍の後遺症が設備投資の遅れや生産性の停滞を招くリスクだ。ただ、米国については、コロナ禍の後遺症は限定的で、過去10年間の平均で年0.5%を下回っていた生産性の伸びが今後5年は1%へ加速すると予測している。

米国の4月の消費者物価(CPI)は前年比4.2%と3月の2.6%から跳ね上がり、落ち着き始めていたインフレ論議に再び火をつけた。米国がインフレ・スパイラルに陥る可能性は小さく、次第に落ち着いていくとみられるが、今後のインフレ率の減速ペースは、極めて緩やかなものに止まるとみられる。最近のインフレ急騰が、本当に収束に向かうのかを判断するために、CPIを財やサービスといった品目別に分析し、今後の米インフレの行方とリスクを検討する。

5月6日のスコットランド議会選挙では、分離独立を志向する勢力が議席の過半数を制した。2014年の住民投票では、僅差で独立反対派が勝利したが、英国のEU離脱をきっかけに、親EU派の多いスコットランドで独立の機運が再び高まっている。スコットランドでの世論調査をみると、昨年は独立支持派が優勢であったが、最近では残留派が優勢を取り戻すなど、揺れ動いている。スコットランドの経済構造をマクロの視点から整理し、スコットランド独立の難しさを明快に解説する。

コロナ禍での米国主導の世界経済の成長期待に、拍車がかかっている。それに伴い、1970年代のような高金利、高インフレ時代へ逆戻りするのではないかという、懸念も出始めた。しかし、話はそれほど簡単ではない。世界経済は長期停滞する可能性のほうが高いのだ。

世界的に脱炭素に向けた流れが加速する中、企業が自らの事業でどれだけ温室効果ガスを排出し、削減に向けてどう取り組んでいるかについての説明責任が一段と求められる。

年明けから続いてきた米国長期金利の上昇だが、ここへ来て名目金利からインフレ期待を除いた実質金利が上昇に転じている。割高感が指摘されてきた米国株式市場は、戦々恐々だ。このまま実質金利が上昇を続けると、市場は本当に大きなショックに見舞われるのか。

市場関係者の中では、コロナ収束後にインフレが高まり、低インフレの時代に終わりが来ることを危惧する声が出ている。それが長期金利の大幅な上昇につながり、株価を含めて金融市場に大きな混乱を招くというのだ。果たしてそれは本当なのか、徹底検証する。

コロナ変異株の出現で目先の不透明性は引き続き高いが、ワクチン普及後には米欧でミニ消費ブームが起きる可能性が高まっている。

コロナ禍で世界経済の先行きを必要以上に不安視する必要はない。コロナショックによる落ち込みが小さく、その後の回復も早くて経済全体を牽引しているのが、製造業だ。日本の製造業は世界の潮流に乗り遅れることなく、景気回復に寄与できるのか。

12月の米国雇用統計で、雇用回復ペースが月を追って減速していることが確認された。これはコロナ禍の深刻さと特殊性を考えると驚くに値せず、米国経済の先行きへの過度の楽観を戒めるサインと見るべきだ。
