
長井滋人
米国で金融引締めが長期化すると、景気への悪影響は米国に止まらず、全世界に及んでいく。中でも心配なのは、新興国における金融政策運営への影響だ。今後FRBが引締めを続け、その後も利下げになかなか転換しない場合、新興国は身動きが取れない状況が続き、世界景気は一段と悪化することも懸念される。新興国の中銀がFRBの利下げを待たずに利下げに踏み切るケースを取り上げるとともに、新興国におけるインフレの波及経路を解説し、新興国が米国よりも早く利下げに踏み切る可能性を論ずる。

コロナ禍は経済活動に不可逆的な変化をもたらした。特にリモートワークの普及は、柔軟な働き方の選択肢として定着する見込みで、コロナ後の経済の生産性上昇に大きく寄与するとの期待も高まる。ただ、リモートワークへの転換が可能な職種や産業は高付加価値のサービス業などに限られる。

供給サイドのインフレ要因は後退しているが、欧米先進国の中央銀行はタカ派的な姿勢を崩していない。今後の利上げ停止の時期や、その後に続く据え置き期間や利下げ転換時期について、市場の見方は大きく分かれ、大きな不確実性要因となっている。中央銀行のタカ派姿勢が変わらない理由を説明するとともに、市場の信認を失った欧米先進国の中央銀行が、再び信認を失ってしまうリスクを明快に解説する。

今年(2023年)の世界経済を展望すると、先進国を中心に多くの国が景気後退入りすることに議論の余地は殆どなく、今後の焦点は、景気後退がマイルドに止まるのか、深刻化するのかという点だ。今年の景気後退が多くの国で不可避となる理由に加え、景気後退時の様子を明快に指摘するとともに、景気後退後の次の景気拡大の様子を大胆に展望する。

中国経済は2010年代に平均8%近い高成長を遂げたが、今後10年間は4%台にまで大きく減速する見込みだ。ここで不動産バブルの処理に失敗すると、一段の失速は避けられない。不動産市場の過熱は著しい。住宅の新規販売価格の対所得比率は、全国平均で8.5倍。これは、サブプライム危機前の米国の5.8倍を大きく上回る危険な水準だ。

コロナ発生直後の世界経済の落込みは、国際金融危機の時を遥かに上回り、大恐慌に匹敵する規模だったが、世界各国が大胆な金融緩和と財政発動に躊躇なく踏み切ったことで、世界経済のV字回復が可能となった。しかし、有効であった財政政策は、短期間で慌てて発動したものだけに完璧なものではなく、事態が落ち着くに連れて政策検証も徐々に始まっている。財政政策を検証する上でのポイントを解説するとともに、財政政策と金融政策の組み合わせ(ポリシーミックス)のあり方と新しい形を考える。

英国史上最短の45日で終わりを迎えたトラス政権。政権交代をもたらしたポンドと国債価格の急落、その後の戻しの振れ幅はすさまじく、わずか3週間で国債の価値が30%も下落したことになる。

米連邦準備制度理事会(FRB)は、インフレ抑制を最優先に、金融引締めを一段と強化し、景気後退入りも辞さない姿勢を明確にしている。景気後退を招いても、利下げに転じることで対処可能とFRBは考えているようだ。しかし、利下げで景気後退が収まる保証はない。実体経済の悪化が、株価や住宅価格といった資産価格の大幅な調整を招き、金融市場・システムの不安定化を招く展開もありえる。実質長期金利が急ピッチで上昇している状況を整理するとともに、実質長期金利の上昇がシステミックリスクにつながる展開の可能性を論ずる。

中国の経済成長は、22年に3.2%、23年も4.9%と、5.5%の成長目標には程遠い低成長が続く見通しだ。現在の中国の成長伸び悩みは、より深刻な構造的な問題がもたらす長期的な成長率低下だ。英経済調査機関の在日代表が、成長会計アプローチで中国の長期成長の行方を分析するとともに、米中対立下の中国経済の先行きを見通す。

相場を動かす要因は、金利差や対外収支の変化、地政学リスクなど様々で、局面によって主役も入れ替わる。しかし、その中で一貫してドル高基調は続いている。ドル高が今後どれだけ続くかは、ドル円相場の帰趨に止まらず、世界経済の成長の持続性という意味でも鍵を握っている。昨年から今年、そして来年におけるマクロ経済要因を整理し、ドルが下落に転じるシナリオとドル高が続くシナリオを考える。

ウクライナ戦争の経済的ダメージは欧州において飛び抜けて深刻だ。パイプライン経由の天然ガスを中心に、欧州連合(EU)全体の消費エネルギーの24.4%をロシアからの輸入に依存していることが大きい。このアキレス腱ともいうべきガス供給が、ウクライナ支援へのロシアの対抗措置として例年の7割以上も削減されている。この影響を重くみた当社は7月に2023年のユーロ圏の成長見通しを2.5%から1%へ大幅に引き下げた。

高インフレに収束の兆しがみられず、米国だけでなくユーロ圏でも中央銀行が利上げの大幅前倒しに追い込まれているなかで、市場は利上げによる景気後退への懸念を強めている。最悪の展開として恐れられているのがスタグフレーションだ。スタグレーションが発生するリスクを正しく恐れるためには、スタグフレーションの歴史を振り返り、過去に何が起きたかを知ることが有益だ。50年代以降の長期にわたり米英仏の成長とインフレの関係を検証し、われわれがスタグフレーションに直面する可能性を考察する。

リスク・ヘッジの手法のひとつに、株式と債券の双方に投資することによるポートフォリオ分散がある。相場のサイクルによって株式と債券のウェイトを調整し、投資全体のリターンの変動を小さく出来る。しかし昨年から株安と債券安が同時に起こり、ポートフォリオ分散効果が機能しなくなっている。分散効果が機能しなくなった理由をマクロ経済の視点から解説し、機能が回復する可能性を考察する。

米国の中央銀行による利上げ加速で景気後退観測が高まっている。中でも30年の固定住宅ローン金利は昨年末から2%超も跳ね上がり、住宅市場に影を落とす。株価に加えて住宅価格まで変調を来すと個人消費へのダメージも大きい。

インフレが高まっていることでFRBは金融引き締め姿勢を強めているが、金融引締めが行き過ぎ、景気のオーバーキル懸念も高まっている。景気後退を招かずにインフレを鎮静化させる、いわゆる軟着陸の難しさに注目が集まっている。銀行の与信基準という視点から、これまでの金融引き締めの影響を確認するとともに、株価下落と与信基準の関係や、米金融引き締めによる新興国経済への影響などを整理し、軟着陸が実現する可能性を議論する。

米国が国際基軸通貨ドルの持つ圧倒的な優位性を使った金融制裁に踏み切ったことで、米国が地政学的な紛争の解決手段として金融制裁を行うことに躊躇しない時代に入った。これは不可逆的な変化であり、米ドルへの過度の依存を避ける取組みが本格化するだろう。脱ドル化の手段として有力視される人民元が内包する大きな課題を指摘するとともに、国際金融システムにおけるブロック化の可能性を明快なロジックで解説する。

経済制裁がロシア経済へ与えるダメージは甚大だ。10%を超える異例の利上げで金融面の大混乱は取りあえず回避しているが、実体経済への影響はこれから本格化していく。

日本の物価の上がり方は、2%を一時的に超える程度で限定的だが、賃金の回復が緩慢なため、家計の実質可処分所得は2%ほど減少する見込みだ。資源価格上昇がもたらすデフレ圧力は、日本経済のアキレス腱で、「失われた20年」の大きな原因のひとつ。日本経済が資源価格の上昇に脆弱な理由を解説するとともに、対外ショックへの対抗力を高める方策を提言する。

12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨は予想以上にタカ派的。金融市場は利上げ開始時期の見通しを一段と前倒しにした。しかし、株式市場は同議事要旨公表後も落ち着いた動き。為替市場でも円安(ドル高)は進行していない。利上げ前倒しに対する市場の見方を解説するとともに、米利上げに対する市場の見方が一変する可能性をマクロ経済の視点から指摘する。

脱炭素社会の実現には桁違いのお金がかかる。巨額の設備投資など企業の負担ばかりに注目が集まっているが、個人が普段の生活を通じて住宅で排出する炭素も膨大な量だ。この削減を図るには住宅改修など大きな負担が家計にも生じることを覚悟すべきだ。
