佐倉 勲
ワンウェイ規制の日本において、銀行は業務範囲規制が課されており、原則として一般事業を営むことは禁止されている。しかしながら、2000年代に入り、取引先に対する支援、あるいは、銀行の余剰能力の有効活用といった観点から、銀行本体で行える付随業務の一環として、金融との直接的な関わりが薄い業務も少しずつ容認されてきた。

今回は、諸外国において銀行が一般事業に参入している事例を取り上げる。ツーウェイ規制の欧州では、フランスのBNPパリバが、子会社BNPパリバリアルエステートを通じて不動産事業に参入した。また、ノーウェイ規制の米国では、銀行が一般事業を営むことには強い制約がある。さらに、アジアでは銀行による電子商取引事業への参入事例が多く見られる。

わが国では、2000年代に入り、事業会社による銀行業への参入が活発化した。現在、事業会社に保有されている銀行は、小売系のイオン銀行・セブン銀行・ローソン銀行、通信系のauじぶん銀行、IT系の楽天銀行・ジャパンネット銀行、メーカー系のソニー銀行がある。このうち預金残高が多いのは、イオン銀行と楽天銀行で、20年9月末時点でいずれも3.9兆円と地銀中位行レベルまで拡大している。

今回は、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に代表される、いわゆるビッグテックと銀行業との関わりを見る。アマゾンは、電子商取引市場を運営して小売業者と消費者の双方を顧客基盤に持ち、商取引に資金決済が伴うことから金融との親和性が高い。実際、米国においては、決済業務とともに、中小企業向け貸出、個人向けクレジットカードなどの金融サービスを提供している。

今回は、事業会社と銀行、双方向に参入を容認する「ツーウェイ規制」の欧州において事業会社が銀行を保有する事例を中心に見る。その嚆矢(こうし)となったのは、英国の大手スーパーマーケットによる銀行設立である。

本連載のテーマは、「金融と非金融の融合」である。読者がこのテーマで思い浮かべるのは、フィンテック企業を含めた異業種による金融ビジネスへの参入ではないだろうか。しかしながら、フィンテック企業による金融ビジネスへの参入は、厳密にいえば、金融ビジネスにおけるプレイヤーの「多様化」であり、その事例はすでに多方面で語られている。本連載では、「金融と非金融の融合」を、金融以外の本業を有する事業会社による金融業への参入と、その裏返しとしての銀行をはじめとする金融機関による非金融事業への進出と捉える。テクノロジーの発達などを背景に、近年はこの相互参入が進展している。以下では、規制動向や国内外の具体的な事例を、歴史を振り返りながら概観し、将来の「金融のかたち」を探っていきたい。
