「グリット」はもっと伸ばせる

 マッカーサー賞の受賞者が公式発表された日の朝、私は両親の家まで歩いて行った。父も母もすでにニュースを聞いており、同じく朗報を聞きつけた親戚のおばたちから次々に祝福の電話がかかってきた。

 ようやく電話が鳴りやむと、父は私のほうを向いて言った。

「おまえを誇りに思うよ」

 それを聞いて、言いたいことは山ほどあったが、ぐっとこらえて言った。

「ありがとう、お父さん」

 過去のことを蒸し返したところで、どうにもならない。それに、父が私を誇りに思うというのは、本心だとわかっていた。

 けれども、もし時を遡れるものならば、子どものころに戻りたいと思わずにはいられなかった。いまならわかっていることを、あのころの父に言ってやりたかった。

「お父さん。お父さんはいつも私に、おまえは天才じゃないんだ、って言うよね。べつに、それに反論するつもりはないよ。私より頭のいい人なんて、いくらでもいるだろうから」

 真顔でうなずく父の顔が目に浮かぶようだ。

「でも、これだけは言わせて。私だっておとなになったら、お父さんに負けないくらい、自分の仕事に打ちこんでみせる。ただ就職すればいいなんて思ってないよ。私は天職に就きたいの。
 だから、自分を高める努力を怠らない。打ちのめされても、絶対に立ち直ってみせる。たしかに、私はクラスでいちばん頭がいいとは言えないかもしれない。でもきっと誰よりも、粘り強くやり抜いてみせる」

 それでもまだ父が聞いていたら、最後にこうつけ加えよう。

「お父さん、長い目で見れば才能よりも重要なのは、グリット(やり抜く力)なのよ」

 いまの私には、自分の主張を裏付ける科学的根拠がある。さらに、「グリット」は固定したものではなく、変化することもわかっている。科学の知見によって、「グリット」を育むための方法もわかってきているのだ。

 本書は、私が「グリット」について学んできたことの集大成である。

 原稿を書き上げたあと、私は父のもとを訪ねた。

 何日もかけて、最初から最後まで一行も飛ばさずに、すべての章を父に読んで聞かせた。父は10年ほど前からパーキンソン病を患っており、内容をどこまで理解しているのか、正直、わかりかねる部分もあった。でも父は、熱心に耳を傾けているように見えた。

 そしてとうとう読み終えたとき、父は私を見た。永遠と思えるような時間が流れたあと、父はそっとうなずいた。そして、ほほえんだ。

(本原稿は書籍『やり抜く力 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』のまえがきです)