2015年度の営業収益が初めて8兆円を超えた流通大手のイオン。ただ、稼ぎ頭は金融と不動産という状況は変わらず、苦戦が続く本業のGMSの改革は道半ばだ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大矢博之)

「GMS(総合スーパー)改革は、この会見とは関係がないでしょう」

 7月8日、東京・霞が関の日本郵政本社。イオンと日本郵政の連携強化を発表した記者会見は、イオンの岡田元也社長の一言で重苦しい雰囲気に包まれた。

 この日発表されたのは、イオンの店舗への郵便物受け取りロッカーの設置や、イオンが豪タスマニア島で生産するプライベートブランド(PB)の牛肉の輸送を、日本郵政グループが担うなどというもの。タスマニア島から大阪港までの輸送を、日本郵政が2015年に買収した豪トール社が一貫して担うことで、「物流コストが約25%削減できる」(岡田社長)。

 物流と流通の二大企業が提携関係をアピールする場とあって、日本郵政の長門正貢社長が「イオンとWin-Winの関係をより一層進めたい」と述べれば、岡田社長が「アセアン地域での国際物流は極力1社にお願いしたい」と言及するなど、会見は和やかな雰囲気で進行していった。

 ところが、報道陣からイオンのGMS改革についての質問が飛ぶと雰囲気は一変。岡田社長はぶぜんとした表情を見せ、回答することを拒否したのだ。

 報道陣の興味がGMSに向くのも当然だろう。なぜなら、この会見の2日前に発表されたイオンの16年度第1四半期の決算で、GMS事業の数字に“異変”が起きていたからだ。

 本業のGMSをどう立て直すのか──。ここ2年間、イオンはこの課題に付きまとわれてきた。

 4月の15年度決算で、営業収益は過去最高となる8兆1767億円を達成(図(1))。営業利益も前年度比で25%増の1769億円と増収増益を果たしたが、その内訳は完全子会社化したウエルシアホールディングスなど、ドラッグ事業の貢献が大きかった。

 とはいえ、懸案だったGMS事業は、15年度第3四半期まで赤字だったものの、最後の3カ月で巻き返して93億円の黒字で着地。2年前から取り組んできたGMS改革が効果を見せ始めたことをアピールする内容だった。

 ところが、「改革が奏功してきた」(イオン)としていたGMS事業に対して、冷や水を浴びせたのが、16年度第1四半期決算だった。93億円の営業赤字となり、前年度同期から45億円も損失が拡大したのだ(図(2))。

 営業収益の約3割を占める本業のGMS事業の赤字を、イオンモールのテナント収入を主とする不動産事業や、銀行やクレジットカードといった金融事業の稼ぎで補填する。

 “本業赤字”の深刻度が増しているからこそ、報道陣は直近の決算会見に出席しなかった岡田社長のコメントを求めたのだ。