――なぜ、ヒラリーのキャッチコピーは
ブレてしまったのでしょうか。

前田 それは結局、「念(おも)い」が定まってないからじゃないでしょうか?
 そんな気がします。
 トランプはよくも悪くも、彼の中で「こうしたい。こうすべきだ」という思いがしっかりとしている。だから、生まれてくるコピーも明確で、ブレがない。

横田 そうかもしれませんね。そこで、僕が推測するのが、ヒラリーはメッセージを打ち出す相手を絞りきれなかったんじゃないか、ということです。
 その結果、メッセージにもブレが生じてしまったように思うのです。
 コピーライティングの原則として「書く前にターゲットを定めよ」というものがあります。
 その観点からいうと、トランプは、オバマに対して不満を溜めている中間層に対してというターゲットが明確です。
 一方のクリントンは、「Stronger Together」というメッセージを誰に伝えているのかがあいまいな感は否めません。
 誰に対して「一緒のほうが強い」と言っているのか。今までバラバラだった人たちは誰なのか。ちょっと見えづらいですね。だからこそ、PRの打ち出し方もブレているように見えてくる。

前田 同感ですね。加えてトランプは、「やるか、やらないか」という二元論でメッセージを発することが多いから、聞いていてすごくわかりやすい。
「もうAかBしかないでしょ、どっちなんですかみなさん」と選択を迫るやり方が、パワフルに聞こえてしまうんです。
 この二元論には問題もあると思います。
 世の中、そんなにシンプルじゃないですからね(笑)。
 それに、パワフルなキャッチコピーで支持を広げても、詳しく政策を見ていくと整合性がとれていなかったり、非現実的だったりすることもあると思います。
 だから、わかりやすくてパワフルなキャッチコピーに振り回されてはならない、という警戒感は必要だと思います。

横田 そうですね。いちばん重要なのは「中身」ですからね。

前田 ええ。ただ、どんなに「中身」があったとしても、それを多くの人々に伝播させる「強い言葉」をもたなければ意味がありません。
 これは、ビジネス・プレゼンでも同じことです。
 いい商品・サービスがあるのが大前提です。だけど、それを相手にわかりやすく伝える言葉をもたなければ、使ってもらうことはできない。
だから、キャッチコピーの重要性は「中身」と同等だと僕は思っています。

横田 おっしゃるとおりです。なかには、「中身」さえよければいいと考える方もいますが、それはもったいない。
 せっかくいいモノをつくったのならば、なおさら、それを広める言葉を磨くべきです。そんな、意識とノウハウを「ダイヤモンド社プレミアム白熱講座」でも伝えていきたいと思っています。

(おわり)