2000年代に入って間もない頃、デトロイト、パリ、ジュネーブ、フランクフルト、東京など世界の主だった自動車ショーには、日米欧の燃料電池コンセプトモデルが次々と登場した。
2002年12月2日、霞ヶ関・首相官邸では小泉純一郎内閣総理大臣(当時)が、トヨタ、ホンダの世界初認証車両としての燃料電池車に試乗。そうした政界、財界の動きを踏まえて、テレビ朝日「ニュースステーション」の取材で久米宏キャスターも燃料電池車に試乗するなど、各メディアは連日のように、「燃料電池車は日本の最先端技術が集約されている」「燃料電池車が日本の未来を担う!」と、「燃料電池車ブーム」を創出した。
ところが2010年現在、世界の自動車ショーの主役は明らかに電気自動車だ。燃料電池車の姿は、ほぼゼロだ。その一方で、世界初の量産型燃料電池車、ホンダ「FCXクラリティ」は2008年から日本とアメリカ・南カリフォルニアでリース販売されている。当初目標は日米で3年間200台だった。
現状についてホンダ広報部に問い合わせたところ、米国では主に個人向けで20台(2010年9月30日現在)、日本では官公庁が主体で6台(同年10月15日現在)との回答だった。
同車の米国でのリース代は、整備費と対人対物保険込みで3年契約/月額600ドル(1ドル81円換算で48,600円)。これはアメリカでは、メルセデスやBMWの上級クラスと同レベルのリース代金であり、「次世代車一番乗り気分」を味わうのなら、けっして高くはないはずだ。だが、インフラの整備が予想以上に進まず、また「リーマンショックも影響」(2009年6月の取材時におけるホンダ側の説明)して、予想を遥かに下回る普及台数となっている。
また、日本で開催される技術関連の見本市でも、太陽光発電、リチウムイオンなどの二次電池に比べて、自動車を含めた燃料電池全体に対する注目度が明らかに下がっている。
こうした「一気に話題が盛り上がった後の静寂」という雰囲気を受けて、一般的には「燃料電池車は事実上死んでしまったのか?」と、思われることが多くなったと言える。
しかし筆者は今、新しい流れを感じている。燃料電池車の復権の兆しだ。