経済性工学は、前回述べたように、将来に向けた意思決定を助けるための考え方であり、改善活動の効果を正しく評価するためにも必要不可欠である。

 例えば、工程での設備段取り時間を短縮した場合、多くの企業で、「短縮時間×その時間分の賃率」が改善効果として計算される。段取り時間を30分短くし、オペレーター1名の賃率が1時間当たり2000円とすると、「2000円×0.5時間=1000円」が1日の効果、月に20日稼働として2万円のコスト削減効果とされる。

 また、不良品を減らす工程改善効果は、「単価×減った不良品の数」で計算されることが多い。この場合、1日に10%、1000個発生していた不良品が半分になるように改善すると、「材料費100円×500個=5万円」が1日あたりの改善効果とされる。月20日稼働として100万円の効果である。しかし、果たしてこれらの計算は正しいのだろうか?

重要な手余りと手不足の区別

 一般に段取り時間を短くすると、従来は段取りのために製品を生産できなかった時間が、生産可能時間に変化する。そうすると、製品の供給能力が向上することになる。ここで、需要と供給のバランスという問題が発生する。もし、供給能力(手)が充分で、需要を上回っている「手余り」の状態であれば、生産能力の増加は、生産数量の増加ではなく、生産に必要な時間を短縮し、残業や休日出勤を減らすだけである。

 一方、もし需要が生産能力を上回っている「手不足」の状態であれば、段取り時間の短縮によって生産可能数量が増え、それは直ちに販売可能数量の増加に結びつく。その分材料費などの変動費も必要になるが、それ以上に多くの売り上げ収入が得られ、粗利益(売上収入-変動費支出)の総額が増えることになる。したがって、手不足の下での改善は大きな効果を生み出す。