「心は全部臓器に眠っている」
東洋医学のシンプルさ

 西洋医学との最大の違いは、治療法のシンプルさだろう。

 どんな病気でも、肝と腎と脾と肺の4パターンに分けて治してしまう。副作用はなく、西洋医学的な診断が定まっていなくても問題はない。

 理屈はこうだ。

 西洋医学では、心を司るのは脳であるという考えから、心の治療も脳科学の分野になるが、東洋医学では、心は全部臓器に眠っていると考える。怒っている時は肝がおかしくなっており、落ち込んでうつになっているときは腎がおかしくなっているといった具合。

 人間の心身はコマと一緒で、コマがバランスを保ち回っていられるのは一定のスピードで回っているからなのと同じように、人間の精神も、全身を気が一定のスペードでめぐっているおかげでバランスが保たれる。気のめぐりがどこか一か所でも詰まったり、滞ったりしてしまうと、精神もバランスを崩したコマのように倒れてしまう。バランスを崩すせいで臓器がおかしくなり、その臓器と繋がっている感情の異常として表面化してくる。ゆえにココロの病を治療する方法として、鍼で気のめぐりを正すのは理にかなっている。

 ちなみに、臓器(五臓)と感情のつながりは以下の表の通り。

 ただし、うつ病であっても、肺が弱っているパターンばかりとは限らない。腎が弱っているパターンもあれば、肝が弱っているパターンもあるため、治療では、一番表に出ている症状につながるパターンから治していく。躁うつの激しいタイプの場合は、肝の治療から始め、イライラの解消から始めるのだ。

 こうした心の病気の構造は、キャベツにたとえられる。

 病の根っこを包むように、いくつもの症状がキャベツの葉っぱ状に層をなしており、それを1枚1枚剥がしていくのが、痛くない鍼灸による心のケアだ。

 肝の症状を剥がすと、腎の症状があらわれ、それを剥がすと肺の症状があらわれる、肺の症状をはがすとまた肝の症状がでてきてというような、根気のいる作業を繰り返し、「最後の症状=根っこ」にたどり着く。ようやく、治療完了のゴールが見えてくる。

 この間、最も怖いのは、症状が悪化し、最悪の場合自殺に至ってしまうことだ。

 そうした事態を回避し、最善の治療ができるよう、治療は精神科医と鍼灸師による綿密な連携のもとで行われることが望ましい。

 2015年3月、前出の船水さんは、加茂登志子医師(東京女子医科大学附属女性生涯健康センタ― 所長・教授 )が大会長を務める『国際ウィメンズメンタルヘルス学会』のシンポジウムにパネリストとして登壇。精神医学会の世界的権威ら錚々たるメンバーとともに、東洋医学を取り入れたうつ病治療についてディスカッションを展開した。鍼灸師が、こうした本格的な西洋医学の場で情報発信するのは前例がない。

 今後は日本でも、鍼灸師が精神科医や心理カウンセラーとタッグを組み、医療チームの一員として、気の流れを整えたり、東洋医学的な治療の部分を担当する時代が来るのではないだろうか。痛くない鍼灸を活用するうつ病治療に期待している。