燃えるようなシチメンソウの赤い花が一面に咲いている。泥の上ではムツゴロウが、不器用にその胸ビレを羽ばたかせている。シオマネキの大群は波を呼び込むかのように、その大きな片腕を海に向けて回している。
約10年前、筆者が諫早湾を訪れた時に見られた美しい光景が忘れられない。
諫早湾干拓事業による干潟の消滅によって、当時の美しい景色は消えてしまった。豊かな周辺の漁場にも影響が現れ、海苔の養殖は壊滅的な被害を受けた。潮受け堤防はまさしく「ギロチン」のように、多くの干潟の生物を死に追いやったのだ。
鳩山法相の「待った」は
パフォーマンスではない
6月28日、佐賀地裁は、潮受け堤防の開門を求める漁協関係者の訴えを認めて、被告である国への敗訴判決を言い渡した。
若林農水大臣は控訴期限前日(7月10日)には、控訴を決めて、北海道洞爺湖サミットを終えたばかりの福田首相に報告する予定であった。だが、ここで思わぬ妨害が入った。
国家賠償請求で一部権限を持つ鳩山法務大臣が、「無条件での控訴は認められない」として、待ったをかけたのだ。
農相と法相の対決は、思わぬ事態に発展するかにみえた。北海道でサミットに参加中の福田首相は、東京に戻ると法務相に面会して、その意向を確認した。だが、自らの判断は保留し、結局、農水大臣に決定を預けた。
それでも鳩山法務大臣の「暴走」は止まらない。控訴断念を狙って、若林農水大臣との直談判に賭けたのだ。
結果は、控訴断念には至らず、環境アセスメントの再実施に留まった。そして国のその動きを見て、原告も福岡高裁に控訴した。
内閣不一致ともいえるこの騒動を、多くのメディアは「法相のパフォーマンス」と片付けてしまったようだ。