「先生、生産について分かりやすく書かれている本を教えてもらえませんか?」
企業の人や学生からよく聞かれる質問である。もちろん、テーマを絞ればいい本はあるし、読んでおくべき論文もある。しかし大抵の場合、「いい本はない」と、答えることにしている。本を読む時間があったら、工場の現場へ行くべき、私はそう信じているからである。なぜそう思っているのか、まずは一つの事例から話をスタートしてみたい。
自動販売機製造ビジネス
日本では、街中で何か飲みたくなれば、ほとんどどこにでも、自動販売機を見つけることができる。階段を上った駅の改札横、あるいは湖や川の畔など、ありとあらゆる場所に自販機が置かれている。一時期、道路へのはみ出し自販機が社会問題として取り上げられたが、繁華街では何台もの自販機が通路ギリギリに並んでいることも珍しくない。
では、こうした自販機を製造・販売するビジネスは利益を生んでいるのだろうか?
自販機メーカーにとって、納入先(顧客)は飲料メーカーであり、大半が注文生産である。飲料メーカー各社は、消費者にアピールする品揃えや陳列を他社と競い、ほぼ毎年新しい機種を考案し、古い機種を更新していく。高さや幅といった大きさも実に多様である。
自販機は極端な多品種製品であり、缶やペットボトルの大きさ、陳列ウィンドウのデザイン、はたまた内部機構の多様性により、機種ごとに寸法が微妙に異なる。加えて、飲料メーカーごとに外装のデザインも異なっている。標準化とはおよそ逆方向に進んでいるビジネスである。
さらに、灼熱の炎天下でも、台風の中でも、吹雪でも、文句一つ言わずに飲料を提供してくれるのが、自販機の特性である。厳しい使用条件を満たす耐久性、さらには現金を蓄えておくという意味でのセキュリティ、最近では品切れを無線で供給拠点に知らせるインテリジェンス在庫管理など、求められる機能水準は年々高度化している。当然に、ビジネスとしては厳しいものになる。