2.キャッチアップモデル

 敗戦後の日本の復興を考えていた吉田茂は、GEやGMが牽引しているアメリカ経済に目をつけた。電力、鉄鋼の復活から始めて最終的には電気・電子産業や自動車産業を興せば日本の復活はなると考えたのである。地方から労働力を都市に移す、すなわち農業に従事していた若者を都市に集めてトヨタや松下(現パナソニック)に勤めさせればいい(生産性の低い農業から生産性の高い製造業へ労働力をシフト。その象徴が集団就職であった)。

 このモデルは製造業を核にしている。製造業(≒工場)の理想は、産業革命以降、常に24時間操業である。従って、若くて元気でひたすら素直な労働力を青田買いし(勉強している学生は、このモデルで本当にいいのかなどと余計なことを考えるのでむしろ邪魔になる)、長時間働かせることが適していたのである。加えて、工場には筋力の優れた男性の方が向いていた。

 こうして朝早く出社し、夜遅く帰って「メシ、風呂、寝る」の生活を送る働き方がロール・モデルとして誕生・定着したのである。そうなると女性は家にいて「メシ、風呂、寝る」のケアをした方が全体としては効率性が高くなる。そこで性分業が行われ、配偶者控除や3号被保険者など専業主婦に有利ないくつものインセンティブが設計されて現在に至っているのである。ただし、現在の日本は「アメリカに追いつき追い越せ」というキャッチアップモデルから、「課題先進国」に転じて久しい。

3.人口の増加

 人口ボーナスが高度成長に大きく資することは説明の要がない。かつての人間の歴史において、人口の増加は、繁栄、安定、安全と同義語だったのである。現在の日本は人口オーナス(人口の減少)に直面している。わが国の人口ボーナス時代のガラパゴス的な労働慣行である定年制の廃止(→同一労働・同一賃金への移行)については、前回述べたのでここでは繰り返さない。

 以上見てきたように戦後わが国の高度成長を牽引した3条件は、ことごとくベクトルが逆方向に向いてしまっている。この外的条件の変化を考慮することなく、昔と同じように「メシ、風呂、寝る」の働き方(長時間労働)を続けていれば「骨折り損のくたびれ儲け」に陥るのは理の当然ではないか。

「メシ、風呂、寝る」から「人・本・旅」へ

 人口オーナス社会では、人口の減少分を補って労働生産性が向上しなければ、成長はあり得ない。わが国の労働生産性はOECD34ヵ国中21位であって(G7の中では20年最下位を続けている)、1人当たり7万2994ドル(2014)であった。なお、ドイツは9万2904ドル、フランスは9万9680ドルである。