踏ん張ることなく立てているほうがラクであり、しかも、どっしりと安定していて押されても崩れない―一見、矛盾しているようですが、この2つの要素を併せ持った状態こそが、私の考える「自然体」です。
立ち居振る舞いという言葉があるように、こうした自然体の立ち方は、すべての動作の基本になります。ちゃんと立つことが、歩くこと、座ること、走ること……日常のさまざまな動作を心地よいものに変えていく第一歩です。
ランナーだから走ればいいわけではなく、まずは立つことが求められるのです。
そのため、いい立ち方ができなければ、ただ歩くだけ、走るだけで体に負荷がかかってしまい、思うようなパフォーマンスができません。
練習よりも、日常を過ごす時間のほうがはるかに長いはずです。シビアな言い方をすれば、自然体の立ち方を身につけることで体力のロスを防ぎ、プロとして通用する動きが可能になってくるのです。
前述の投手にも試しに踏ん張って立ってもらいましたが、私が横から手で押しただけで簡単に体がグラついてしまいました。
日頃からしっかりトレーニングし、一般人以上に体格がいい人であっても、踏ん張ろうとして下半身に力を入れると、それだけで不安定になります。ふだん立っている状態のほうがかえって安定しているくらいでしょう。
「体の重さが全然利用できていないね」
私の言葉にキョトンとしている彼に「ダブルTの立ち方」を指導すると、今度は横から押しても全然ぐらつきません。暖簾に腕押しの言葉通り、相手の押す力を体が吸収し、ずっとラクに立っていられるのです。
私が「骨身にまかせる」と呼んでいるのは、まさにこの状態。重心点のポイントさえ合わせれば、立つために必要な最低限の筋肉以外は休むことができるため、横から押されても倒れない体幹の強さをキープしながら、心身はとてもリラックスした、安定した状態でいられるのです。
スポーツの世界では、無駄な力を抜く「脱力」が大事だと言われていますが、それは力をすべて抜いてしまうことではありません。
そもそも、すべての力を抜いてしまったら、立つことも、座ることもままならなくなります。そうではなく、あくまでも無駄な力を抜いていく。そうやって骨身にまかせることで、力まずに動作ができるのです。