ニーチェは名言の作り方が詩的なので紹介しやすい
原田 本当ですか!うれしいです。主人公を17歳にしてよかったです(笑)
堀田 日本人ってニーチェが好きですよね。ダ・ヴィンチと並んで好き。原田さんの本でもそのニーチェがメンターとして現れる。
飲茶 そうですね。僕、まりるさんの本、実存主義の哲学入門書としてすごいなと思うのは、目次のところ。目次には哲学者の言葉が載っているんですが、普通そういうのって基本的に何を書いているかわからないんですよね。だから多くの哲学作家は、哲学者の言葉を一つずつ説明するんですが、まりるさんは「その部分だけ読んでもぐっとくる」ものだけをピックアップして目次に載せている。すごく洗練されているなと。
原田 ありがとうございます。よりキャッチーにしたくて選別しました。
飲茶 どちらかというと超訳型ですよね。だからスラスラ最後まで読めちゃう。哲学者って有益なことをいろいろ言っているので、「これも言っているしあれも言っている」と一気に説明したくなるんだけど、まりるさんは一つの言葉を言わせたらいったんそこで切って、話を締めてから、また別の日に別の話をする。だから主人公が、話をいったん咀嚼して理解できる。それがすごくうまいなと。
原田 哲学者を語ろうとすると、時代背景的に宗教が絡んでくるじゃないですか。哲学の考え方を突き詰めた結論が、結局「神様のしわざだ」で締められたりすると、現代の人には刺さらないんじゃないかなと思ったんですね。
飲茶 そうなんですよね。そういう神様がらみの話を思い切って差っ引いて、いきなり最初に実存主義の、人の心に響く言葉をガツンと持ってきた。その決断がすごいなと思って。…僕の本に『14歳からの哲学入門』というのがあるんですが、これもやっぱり「哲学入門書あるある」で、最初に紹介しているのがデカルトなんです。
堀田 僕の本でもそうですよ(笑)!
原田 でも哲学史を知る上での、必修科目みたいなものではありますよね。
飲茶 そうそう。哲学入門書を書く側としては、どうしてもデカルトから初めて順番に説明しなければという思いがあるんだけれど、どうしても大学の必修科目みたいになっちゃって。一方で物語性のあるものは、すごく人の心に残るし頭でも解釈しやすい。例えば浦島太郎とか桃太郎って誰でも覚えているじゃないですか。それと同じで、まりるさんの本は実存主義の話をちゃんと物語にしているから、すごく頭に残るんです。
原田 飲茶さんの本も、哲学者同士の関係性を考えて、一つの考えを紹介した後に「誰々からこんな異論が上がってきた」というように、つながりを重視して書かれていますよね。水属性のボスを倒したら、今度は水に強い雷属性のボスが現れた!みたいな(笑)
飲茶 そうですね。僕もやっぱり、読んでくれる読者のことを第一に考え、どうすればこれをわかりやすく読んでくれるんだろうなと考えます。「この人がこんな素晴らしいことを言っていたと紹介して1回トップに立たせるんだけど、別のすごいやつが現れて…というようなストーリーにすると最後まで読んでくれるんじゃないかって。
原田 バトル漫画的な展開ですよね。
飲茶 まりるさんの場合は、哲学者一人ひとりの生き方を説明していて、それに主人公がふれるたびに、私も自分で一生懸命考えてこういう生き方を見つけなければいけないんだと思うようになっていく。この過程が実にリアルですよね。そこ、僕すごくぐっときたんですよ。
原田 本当ですか!うれしいです。主人公を17歳にしてよかったです(笑)
(後編)に続く