哲学者の歴史をひもといて、キャラを設定する

原田まりる(はらだ・まりる)作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター 1985年 京都府生まれ。哲学の道の側で育ち高校生時、哲学書に出会い感銘を受ける。京都女子大学中退。著書に、「私の体を鞭打つ言葉」(サンマーク出版)がある

原田 今回の本は、哲学者をイケメンっぽいキャラクターにしたり、ギャグはおじさんっぽくしたりしましたけれど、堀田さんの本はみんな「美少女」になっていますよね。クールジャパンな哲学書みたいな感じで。

堀田 外国では笑われましたね。「日本人はなに考えてんだ」って(笑)。

原田 (笑)。なぜ女の子で書こうと思ったんですか?

堀田 ひとつは「もえたん」(英語学習と二次元美少女を組み合わせた英語参考書)のように、親しみやすいキャラクターをインタフェースにして、難しいものを紹介するという作品企画の流れがあり、僕も哲学でこれをやってみたいと考えていたんです。

 もうひとつ、僕、なんというか悪戯めいたものが好きで。高校のころに読んだホルヘ・ルイス・ボルヘスの本に、バークリの唯心論が出てくる短編があるんです。それはかつて本当にあった、「ありもしない人物や風物が載ってしまった辞典」にインスパイアされているんだろうな、と感じる作品なのですが、ああした、かっこつけた「戯れ」がすごく好きで。だから、スピノザがパンチラをするようなオタク的な展開と、古典哲学が共存するものを書いてみたいと思っていました。

原田 キャラクター作りは、もともとの哲学者をベースにして組み立てたのか、ラノベのヒロインたちを哲学者に当てはめたのか、どちらで書かれたんですか?

堀田/純司 1969年大阪府生まれ。作家。桃山学院高校を中退した後、大学入学資格検定を経て上智大学文学部ドイツ文学科入学。在学中より編集者として働きはじめ、後に自身の著作を発表するようになる。編集者として93万部のベストセラーとなった『生協の白石さん』、『ガンダムUC証言集』なども企画・編集している

堀田 ベタですけれど、例えばカントであれば風紀委員であったりとか、ニーチェは感情の動きが激しい人だったりとか。一番難しかったのが、ハイデガーでした。

原田 やっぱり(笑)。私もハイデガーのキャラ設定では編集者の方と相当話し合いましたもん。ハイデガーは真面目なのか不真面目なのか人物像を伝えるのが一番難しかったです。

堀田 ハイデガーの『存在の時間』って未完じゃないですか。結局、冒頭で提示された問題は解決されず、別なところで大きな影響を与えてしまった。ナチスへの協力したのではないかという問題もあり、「山師説」さえある。難しかったのですが自分は、「生徒会長」という、それだけではどちらにも行けるキャラクターにしました。原田さんも、ハイデガーは大学教授にしていますものね。

飲茶(やむちゃ)東北大学大学院卒業。哲学や科学など、敷居の高いジャンルの知識を楽しくわかりやすく解説したブログを立ち上げ人気となる。著書に『哲学的な何か、あと科学とか』『史上最強の哲学入門』『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』など。

飲茶 僕の本では、山師説を少し多めに取り入れています。大きい話を言ったんだけど結局最後の肝心なことは言っていなくて、それでも人を引き付けるのがとてもうまい人で、それがすばらしい人生論になっていて、そのまま歴史に残った…という。『エヴァンゲリオン』みたいな感じですかね(笑)。

堀田 空白をみんなが埋めようとする(笑)。

飲茶 エヴァってまだやっているんでしたっけ?

堀田 ええ、新劇場版が続いていて、そのお客さんが「シン・ゴジラ」にも入ってきていたりしているそうです。

飲茶 じゃあハイデガーもいつかそのうち?(笑)最後の完結品が生まれてほしいですね。