拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。
この第11回の講義では、前回に続き「技術」に焦点を当て、拙著、『企画力 − 人間と組織を動かす力』(ダイヤモンド社:PHP文庫)において述べたテーマを取り上げよう。 

企画力とは
「物語のアート」

 今回のテーマは、

 「最高の企画書」とは、「最高の推理小説」である。

 このテーマについて語ろう。

 前回、第10回の講義においては、

企画力とは、人間と組織を動かす力のことである。

 企画とは、実行されて初めて、企画と呼ぶ。

 その二つのことを述べた。

 そう述べると、読者の心には、当然のことながら、一つの問いが浮かんでいるだろう。

では、どのようにして、人間や組織を動かすのか?

 その問いである。

 もとより、企画プロフェッショナルが人間や組織を動かすのは、「権限」を使うことによってや、「資金」を用いることによってではない。経営者やマネジャーのように、職務権限や予算配分権を使って人間や組織を動かすのではない。

 では、企画プロフェッショナルは、何によって人間と組織を動かすのか?

 端的に述べよう。

 「物語」を語ることによってである。

 これから企業や市場や社会で、何が起こるのか。
 そのとき、我々に、いかなる好機が訪れるのか。
 では、その好機を前に、我々は何を為すべきか。
 その結果、我々は、いかなる成果を得られるか。

 その「物語」を魅力的に語ることによってである。

 その「物語」を聞いたとき、多くの人々が、面白いと感じ、想像力を掻きたてられ、様々な智恵が湧き、行動に駆りたてられる。そして、その「物語」を聞いたとき、多くの人々の間に、深い「共感」が生まれてくる。

 そうした「共感の物語」を語ることによって、企画プロフェッショナルは、人間や組織を動かすのである。

 では、もしそうであるならば、「企画力」の真髄とは何か?

 「物語のアート」である。

 企画力とは、「物語のアート」に他ならない。

 一つの事業やプロジェクトの、理念、ビジョン、戦略、戦術、行動計画。

 一つの商品やサービスの、イメージ、アイデア、コンセプト、デザイン。

 これらを、一つの魅力的な「物語」として語る。その「物語のアート」に他ならない。

 では、どのような形で、企画プロフェッショナルは「物語」を語るのか?

 それが「企画書」である。

 「企画書」とは、その「物語」が魅力的に語られたもの。

 なぜなら、「企画」とは、上司や経営トップ、他部門や他企業、顧客や消費者に対して、新しい事業のビジョンや戦略、新しい商品のアイデアやコンセプトなどを提案する行為のことであるが、そのすべては「企画書」というものを通じて行われ、「企画」のすべては「企画書」というものに凝縮されるからである。いや、凝縮ではない、結晶されると言うべきであろう。

 従って、「企画」という営みにおいて最も大切なことは、「魅力的な物語」としての「企画書」を創ることである。それを読んだとき、読み手が面白いと感じ、想像力を掻きたてられ、様々な智恵が湧き、行動に駆りたてられる。そうした「企画書」を創ることである。

 すなわち、企画プロフェッショナルは、「魅力的な物語」、「共感の物語」としての「企画書」を創り、その企画書によって、それを読む「人間」を動かし、そして、人間を動かすことによって、「組織」を動かすのである。

 では、「企画力」というものが「物語のアート」であるならば、その「アート」とは、いったい何か?