今回は、前回の続き「叱るための基本的な10の心得」の後編です。
他人と比較しない
インド出身の哲学者クリシュナムルティは「比較は暴力である」と言いました。自分以外の人間と比較されても、同じ人ではないのですから、まったく同じようにできるわけがありません。育ってきた環境も違いますし、現在のライフスタイルも違うかもしれません。
上司としては、つい仕事のできるほかの人間と比較して、相手を責めてしまいがちですが、比較は何らかの尺度に基づくあくまでも一面的な見方です。その人の一部分だけを取り上げて評価するのは、相手の可能性の過少評価につながりかねません。実際、誰かと比較して批判された人は、「私には、あの人にできないことができるのに……」と思うこともあるのではないでしょうか。こうした表現は、相手と向き合っているようで、実際には、心が向き合っていないことが多いものです。相手の問題点や課題について話しているのに、意識はほかの人のほうへ拡散している場合が多いのです。
また、「Aさんを見習え」などと言ってしまうことによって、その相手とAさんとの関係にも影響を及ぼしてしまうことがあります。それまでうまくいっていた二人の関係が、軽率な一言で変わることもあります。職場の中に不毛な対立関係を作るのは、得策とはいえません。
ここで気をつけたいのは、比較と競争の違いです。ライバル関係にある人間どうしを競わせて、お互いのやる気を高めたり、成績を伸ばすやり方は、よく見られますし、有効な方法といえるでしょう。しかし、同じ土俵の上に立って、お互い合意のもとで目標がある場合は競争といえますが、唐突に別の人を引き合いに出すのは、競争とはいえません。ルールのない状況の中で比較されるのはフェアではありませんし、効果を生む可能性も少ないでしょう。