「リクルーティング・メディア研究」
の見地から考える

バイト求職者の49.8%は「○○」していた!?中原淳(なかはら・じゅん)
東京大学 大学総合教育研究センター 准教授/東京大学大学院 学際情報学府(兼任)/大阪大学博士(人間科学)
1975年北海道旭川生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、米国マサチューセッツ工科大学客員研究員などを経て、2006年より現職。
「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、リーダーシップ開発について研究している。専門は経営学習論・人的資源開発論。
著書・編著に『アルバイト・パート[採用・育成]入門』『企業内人材育成入門』『研修開発入門』(以上ダイヤモンド社)など多数。

パーソルグループ
日本最大級の総合人材サービスグループ。本書においては、同社のシンクタンク・コンサルティング機能を担う株式会社パーソル総合研究所が、中原淳氏とともに大企業7社8ブランド・約2万5000人に対する大規模調査と各種分析・示唆の抽出を実施している

私が専門としている人材マネジメント研究のなかには、どのような採用活動を行えば「いい人材」を採ることができるかを主題にしたリクルーティング研究(採用研究)という分野があります。これは正社員に関する調査を中心に、1970年代から発展してきた研究知見ですが、アルバイト採用にも関連が深そうなものの1つにリクルーティング・メディア研究(または、リクルーティング・ソース研究)というものがあります。

これは、企業が用いる採用メディア(媒体)によって、どのように採用効果が現れるかについての研究です。伝統的なリクルーティング・メディアには新聞・広告・ラジオなどがありますが、近年はインターネットやSNSもそこに含める必要があります。店舗型の職場であれば、店内に貼られるポスターなどもその一種です。

採用担当者である店長は、こうしたメディアの特性を知っておく必要がありますが、先ほど見たデータで興味深いのは「来店時の印象」が「マスメディア」よりも強い影響力を持っているという点でしょう。これは正社員の採用活動には見られない、アルバイト採用に固有の特性でしょう。

アルバイト採用においては、職場そのものが最も重要なリクルーティング・メディアであり、求職者に最も多くを語るものであること―これは特筆すべきポイントだと思います。たとえブランドイメージや知名度において競争力を欠く職場であっても、「職場の印象」を改善する取り組みによって、“一発逆転”できる可能性が示唆されているからです。

あなたの職場そのものが最大のリクルーティング・メディア(採用に最も影響を与える情報を伝える存在)なのです。あなたの職場は、求職者にどのようなメッセージを届けているでしょうか?

応募者が警戒する「ブラックバイト」

多くのアルバイト応募者が、マスメディアなどによって形成されたブランドイメージ以上に、「来店時の印象」を重視しています。こうした傾向は近年ますます強まっている感がありますが、その背景の1つとして考えられるのは、ブラックバイトへの警戒感でしょう。

ブラックバイトとは一般に、本人の希望を無視してシフトを組む、長時間労働を強いる、重すぎる責任・ノルマを課す、ひどい場合は、残業代や割増賃金の不払いがあるなど、労働条件が悪質なアルバイトのことを指します。

こうしたアルバイト雇用の問題に関しては、私も共同研究メンバーも以前から心を痛めており、その根絶に対する意識を高めていきたいと考えています。最新刊『アルバイト・パート[採用・育成]入門』に通底する「働きやすい職場、長く勤めたい職場をつくることこそが、人手不足の解消につながるのだ」というメッセージは、このことの証左です。

ブラックバイトが社会問題として多くのメディアに取り上げられたこともあり、「マスメディアに喧伝されているブランドイメージだけでは“本当にいい職場”かどうかは判断できない」という心理が求職者のあいだに生まれています。先ほどのデータの第3位が「ネット上の口コミ」だったことも、「表向きではない“生の情報”を得て判断したい」という意識の表れだと言えるでしょう。