これまでの人材開発研究には1つの「盲点」があった。それは「アルバイト・パート」の領域だ。しかし最近、ここにスポットを当て、正社員だけに縛られない「人材育成のあり方」を模索する試みがついに現れた。

現場が深刻な「アルバイト不足」に苦しむいま、各企業はいよいよ本格的にアルバイト・パートの「採用」のみならず、「育成」にも戦略的に向き合っていかねばならない。そんななか、人材開発研究の専門家・中原淳氏(東京大学 准教授)とパーソルグループ(人材総合サービス大手)とが手を組み、大手企業7社8ブランド、総勢2万5000人への大規模リサーチを行った。

これまで「勘・経験・度胸」で進められてきた「アルバイト育成」の領域だが、「データ×理論」からは、一体どんなヒントが見えて来たのだろうか?最新刊『アルバイト・パート[採用・育成]入門』から一部を紹介する。

「人を育てる科学」の盲点だった
アルバイト・パート領域

私・中原淳は企業で働く人の学び・成長を主題とする人材開発研究、いわば人を育てる科学の研究者です。日々いろいろな企業様にお邪魔し、人事や教育担当者の方にお話を伺ったり、育成の現場を観察させていただいたりしながら、働く現場でさまざまな調査をしています。

この分野では世界中で数多くの研究がなされていますが、じつを言うと、その大半が対象にしているのは「大企業の正社員」です。長期的に1つの職場にいる人材のほうが調査しやすいという研究者側の事情もありますが、最大の理由は、そうした中核人材の育成には企業側も積極的に力を入れてきたということでしょう。

その結果、「人を育てる科学」の研究は、正規雇用の人材にやや偏ったかたちで進展してきたというのが実情です。

一方、アルバイト・パートといった人材に関しては、いまだに「辞めたらまた採ればいい」「マニュアルどおりにやっていればいい」「育成など不要」といった認識が世間に根強くあります。

そのため、研究の世界でもなかなかはっきりした見解がなく、あまり研究が進んできませんでした。また現場でも、それぞれの店長やマネジャーが自分なりのやり方で手探りをしている状態が続いてきたように思います。