昨秋、米国でのディーゼルエンジンの排出ガス規制に関する不正が発覚し多大なイメージダウンを受けたフォルクスワーゲン(VW)だが、意外にも2016年の世界販売台数は好調であり、9月まではトヨタ自動車を抑えてトップの座を守っている。フォルクスワーゲンの経営陣は世界首位にこだわり、トヨタのクルマ作りを強く意識していたという経緯がある。だが、トヨタを意識した結果、自滅の道を歩んだ自動車メーカーも多い。今後、フォルクスワーゲンはどのような道を進むのであろうか。(ジャーナリスト 井元康一郎)
フォルクスワーゲンの“怪走”
不正があったのに世界販売台数首位
昨年9月にアメリカでディーゼルエンジンの排出ガス規制を不正な方法でクリアしていたことが発覚したドイツのフォルクスワーゲン(VW)。イメージダウンは深刻で、2016年は世界販売の大幅な後退を余儀なくされると予想する向きが多かったが、椿事というべきか意外というべきか、9月までの世界販売台数でトヨタ自動車を抑え、トップを"怪走"している。
フォルクスワーゲンの1~9月の世界販売は760万9000台。対するトヨタは752万9000台で、その差はおよそ8万台。何かが起こればすぐにでもひっくり返る僅差ではあるが、このところ業界では「今年はこのままフォルクスワーゲンがトップを取るのではないか」という観測が広がっている。
理由は、前年覇者のトヨタが首位争いにあまりこだわっていないことだ。トヨタが世界販売で初めてトップに立ったのは、折しもリーマンショックが世界を襲った2008年のこと。1937年の発足から71年目、また創業家一族の豊田章一郎氏の意を受けて張富士夫氏、渡辺捷昭氏の2社長がトップ取りに挑んだ末に悲願を達成した格好だった。
しかし、翌2009年3月期決算は巨額の赤字に陥った。そのときトヨタ首脳のひとりは「ウチは今、満身創痍。世界首位に何の意味があるというのか」と、呆然とした表情で言っていた。現社長の豊田章男氏はグループの販売台数1000万台超をひとつの目安としつつ、一方で「台数は結果」と言い続けている。
台数を増やすことが自己目的化したときに、いかに自分を見失いやすいかということを嫌というほど思い知っているがゆえに、自らを戒めるのに懸命なのである。
トヨタにとっての最大市場はアメリカだが、「アメリカの自動車市場では現在、地元ブランドを中心に異常とも言えるレベルの乱売合戦が展開されている」(現地の販売関係者)という状況。