一方でデンマークの高福祉政策は綻びが見え始めているという。いずれ、隣国スウェーデンのように大掛かりな制度改革が必要になってくる。福祉政策の縮小が始まったとき、彼らはどのように膨大な負債を乗り切るのだろうか。これが「人類でもっとも幸福な国民」のもうひとつの側面だ。

 著者はデンマークの「ヒュゲ」という概念に対する苛立ちもみせている。この概念は日本の「空気を読む」に少し近い感覚なのだが、アングロサクソン人の著者からは、全体主義的な概念に見えるようだ。このあたりの文化的摩擦だけでも本書を読む価値はあると思う。

全体主義的な北欧の人々を
イタズラで挑発

 だが本書は北欧諸国の駄目な面を取り上げて悦に入るような、独りよがりな作品ではない。北欧諸国がどのような歴史的な経緯を経て今のような社会が形成されたのかを考察し、さまざまな専門家にもインタビューを行う事で社会の深層を描き出そうとしている。

 近年ではどの北欧諸国でも、移民の排斥を訴える右翼政党が急速に力を持ちつつある点も興味深い。また、私たちアジア人からすれば均一に見えてしまう北欧の国々にも大きな違いが存在する事。歴史的な経緯によって生まれた、それぞれの国に対する妬みや敵意というものを分かりやすく描いている点も本書の魅力のひとつだ。

 そのような真面目な考察だけでなく、イタズラ心溢れる実験を行い北欧の人々を挑発してみたりと、笑えるエピソードも満載だ。全体主義的な北欧の人々に業を煮やした著者のイタズラは痛快でもあり、ちょっと刺々しくもある。

 ちなみに私のお気に入りのイタズラは、規則を厳守する人々が多いスウェーデンの博物館の「飲食禁止」という看板前で、著者がスナック菓子とコーラを、ことさら大きな音を立てて飲み食いしたエピソードだ。このイタズラはどのような結末を迎えたのか?それは本書を読んで確認してほしい。

 メディアに溢れる北欧賛歌の裏側にある生身の北欧を見つめれば彼らの社会にも様々な矛盾、問題が溢れていることがわかる。それでも彼らは自分達をこの上なく幸福な国民と考えているのだ。彼らの幸福感の源泉がどのようなものなのか、北欧を論じる際には社会の深層までえぐる必要があることを痛感させられた。