→答えは、日本一人口の少ない鳥取県が、自県の可能性を<br />再発見するために行ったこととは?拡大画像表示 です。

重ねる技術:
「弱さ」こそ「強さ」

 自治体や企業には、「完璧であるべき」「かっこよくないと……」という幻想がはびこっています。自治体も企業も人間の集合体ですから、もっと人間らしくていいんです。ただ、長い間、一方的に広告を作り、マスマーケティングを行ってきた結果、生活者との関係をどうつくったらいいのかを忘れてしまっていることがあります。

「クレームを言われないように完璧にしないと……」と思ってしまうと、下手なことはできません。だから本音も言えないし、どこも同じようなことしか言わなくなるから個性がなくなってしまう。

 普通に考えると、完璧な姿を見せようと力みすぎるのではなく、ちょっと抜けた部分や弱さを見せられる人のほうが魅力的ですよね。凸凹の部分に本性が現れるし、個性があります。

 企業もいい部分だけを伝えるのではなく、弱さやデメリットを見せられるほうが信頼される時代になりつつあります。

企業の強み・思い:
ソトの声に耳を傾ける度量と、実は豊かな観光資源

 鳥取県は、日本海に面しているので海産物は新鮮でおいしいし、「大山」をはじめとした山があり、星空の美しさでも全国有数の場所なのです。

 そうはいっても、県民にとっては当たり前のことですし、他県より優れているかどうかなんてわかりません。よく地域を変えるには、「よそ者、若者、ばか者」が必要だといいますが、「ウチ」の視点ではなく、「ソト」の視点が不可欠だったのです。

生活者の本音:
地域・地元とつながっていたい

 安倍政権のもと、地方創生が声高に叫ばれていますが、私たち一般人のレベルで何ができるのか、よくわかりません。「何かできることないかなあ」と考えても、週末に地域ボランティアに行くほど頑張ることはできないという人も多いのではないでしょうか。

 ただ、ふるさと納税をはじめ、気軽に地域・地元とつながっていたいという気持ちは誰しもあります。「Uターンして地元で働くほどでもないけど、ちょっと自分ができることで喜んでもらえたらなあ」という思いを持つ人たちが増えてきていました。

重なりの発見:
アイデア一つで鳥取県を変えられるプロジェクト

 そこで私たちの運営するBlabo!と共同で、地元企業の商品開発に、全国の生活者が参加できる「とっとりとプロジェクト」を立ち上げました。

「困っていることを正直に伝える」鳥取県の姿と、「地域に何か貢献したいなあ」と思っていた人たちの気持ちが重なり、1年間で1500個を超えるアイデアが集まり、ヒット商品が生まれ始めています。

 たとえば、鳥取県にある老舗の餅屋「いけがみ」は、お餅を正月だけではなく、通年で食べてもらいたいという思いを抱いていました。さまざまな料理に使ってもらえるように、薄さ4ミリのスライス餅を開発したものの、鍋に入れて食べる以外にどのような使い道を提示すれば消費者に魅力的に映るのかがわからず、打開策を求めていました。

 そこで、全国の生活者に商品開発を手伝ってもらうことにしたのです。「スライスされた薄いお餅が、あなたの食卓にも並ぶ食品に!どんな使い道や魅力を提案されたら欲しくなる?」

 反響の大きさは予想以上で、「好きなアイスを包んでオリジナルの雪見だいふくを作る」「スープに入れて腹持ちをよくする」など、約240件ものアイデアが寄せられました。このアイデアをもとに商品開発が進み、オイシックスをはじめとした全国展開する販路で売られ、可能性が広がっています。

 また、三朝温泉もこのプロジェクトを通じて、新しい価値に気づくことができました。三朝温泉は、日本遺産に認定された温泉です。ただ、難点はアクセスがあまりよくないことと、電波が入りづらいという現代人にとってはデメリットがありました。しかし、生活者の声を聞いてみると電波が入りづらい場所に行きたいというニーズが予想以上に強かったのです。特に人気が高かったのは「デジタルデトックスの旅」というアイデアです。

 現代人は「いつでもつながっていること」が当たり前になってますが、実は「止まる時間」への需要が高まっていたのです。そこで「何もしない贅沢」を満喫する旅行プラン「デジタルデトックスの旅」が生まれ、宿泊客に利用してもらっています。

 困っていることや弱さは隠すものではなく、逆に共感を生む可能性と捉えると発想が広がります。