→答えは、拡大画像表示 です。
重ねる技術:
「建設的な無駄」を取り入れる
強い風量を謳ったり、価格を抑えたりすることは、本当に生活者の役に立つことなのでしょうか。もちろん家電量販店に行けば、値段と性能を訴求する商品ばかり。ただ、その風量が強くなったことで、「どのように人の体験が変わるのか」という先を考えない限り、買い替えなんて起こりません。
2015年に、バルミューダは扇風機だけではなく、頬っぺたが落ちるくらいおいしいトーストが焼けるというトースターを2万5000円(実売価格)で発売しました。高額にもかかわらず、生活者から受け入れられています。なぜベンチャーが大手家電メーカーより高い評価を受けているのでしょうか。
バルミューダ代表取締役の寺尾玄氏は言います。
「『2万5000円の高機能トースター』
あなたは買いますか?『高い』と思うのが普通だと思います。通常、トースターは数千円で買えるのに、2万5000円のトースターには手を出せないというのが正直なところでしょう。マーケティングを少しかじった人なら、市場がないのにそんなトースターを作るなんて、ちょっと頭がおかしいんじゃないかと思うかもしれませんね。
では、『世界最高においしいトーストを食べる体験』
こう言われると興味がわきませんか?『どんな味だろう、食べてみたい』と。それが2万5000円だったとしても、買う人は出てくるはず。
つまり、人は『モノ』を欲しがっているわけではないのです。人が本当に欲しいと思うものは、何かの『道具』を使ったときに得られる感動や驚き、すなわち『素晴らしい体験』なのです」
実は、体験という感覚的な価値は大きな参入障壁となりえるのです。なぜならば、予算枠が決まっている大手企業は機能開発以外の体験開発という数値化できない部分に投資判断をしづらいからです。最高においしいトーストを食べる体験をつくるためには社員がいろいろなパン屋さんを巡って、一見遊んでいるように見えることも許容しなければいけなくなります。この体験という無駄なコストと思える部分に違いが生まれる。まずはこの事実に向き合う必要があるのです。
企業の強み・思い:
「自然界の風」を再現したい
従来の扇風機の風は、人工的でずっと当たっていると体が冷えすぎてしまう難点がありました。風は直線的で、送り出される風が渦を巻いており、私たちが不自然で人工的だと感じる原因となっていました。
そこで、バルミューダは、顧客が寝るときの「気持ち」に寄り添い、「自然界の風」を再現することに取り組んだのです。
生活者の本音:
心地いい風を感じながら寝られたらなあ
夏の寝苦しい夜は、春先に窓を開けたときに入ってくるようなそよかぜを感じながらぐっすり寝たいもの。だけど、窓を開けたら熱風も、蚊も入ってきます。だからといってエアコンをつけると夏風邪をひいてしまうこともあるし、従来の扇風機では寝苦しく、夏の寝苦しさという問題は未解決事件でした。
心地いい風を感じながら寝られたらなあという生活者の願いは、家電量販店の価格と機能競争では解決されていなかったのです。
重なりの発見:
自然界の風を送り出す扇風機
そこでバルミューダが考えたのは、性能を上げることではなく、どうすれば素晴らしい体験を提供できるかということでした。
「気持ちのいい風のなかで寝られたらいいなあ」という生活者の願いと、バルミューダの「送風という機能を超えた『素晴らしい体験』をつくりたい」という思いが重なり、自然界の風を送り出す扇風機は生まれたのです。
参考文献
・「市場に答えはない」、NEWSPICKS、2016年6月27日
・「消費者はモノなんて買わない」、日経ビジネスオンライン、2015年11月5日配信