「なんとかなる」では「なんともならない」時代

三田 日本の約9割は給与所得者ですよね。お金をある組織からもらって、それで生活する。だから「もらったお金をどう回転させるか」「給与の何割をどう回転させる資金にして、どうやって価値を作っていくか」っていうことを、若いうちからプランを立てるべきなんです。

「儲けたいと思わないかぎり、一生儲からない」<br />『インベスターZ』三田紀房氏に聞くお金のこと<最終回>

 お給料っていうのは、もらえなくなった時点で、そこから貧乏が始まりますよね。もう急激に貧乏になるわけです。給料をもらえているうちはなんとかなるような気がするけど、もらえなくなる時期がかならず来る。そこから、もう、ガタッと、ものすごい貧乏になる。だから、今の20代、30代の人は、ものすごい貧乏になります。しかも、あと10年、15年で、おそらく定年制っていうのはなくなるわけですよ。今の若い人が40代くらいになると、もう会社にいられない状況が来ますんでね。

――え?定年制ってなくなるんですか?

三田 おそらくね。もう、だって「そういう政策にしよう」って、自民党と財界がいろいろ話し合いをしてるわけだから。「会社にいたい人はいてもいいけど、いたかったら、給料半分ですよ」とかね。

――みんな、そんなに切迫感もないし……想像ができないんでしょうね。ぼくも楽観視しちゃってますけど。たしかに「給料がなくなったら貧乏になる」っていうのはあたりまえの話ですけど、でも「なんとかなるんじゃないか」って思っちゃってる。

三田 でも、なんとかならないですよ。

――ならないんですね。

三田 だから、まずは「会社がずっとお給料を払ってくれるんだ」っていうふうに思わないことが大切なんです。

転職に慣れておけ

――他にいまの20代30代に対して「これやっとけよ」ってことありますか?

三田 転職に慣れることじゃないですかね。だって、アメリカ人ってね、生涯で勤める会社は平均3社か4社くらいなんですよね。日本人って、2社も行かないくらいですよね、1社から2社のあいだくらい。

――「新卒でずっと」っていう人、ゴロゴロいますもんね。ゴロゴロっていうか、もうほとんど。

三田 でも、転職することがあたりまえの時代が、もうそこまで来てるので。

――転職すると、何がいいんですか?

三田 いや、慣れておかなきゃいけないってことです。良し悪しじゃなくて、そういう状況になるので。

――転職活動すると、嫌でも自分の市場価値がわかっちゃいますよね?「俺って、必要とされてないんだ」とか「意外と必要とされてるな」とか。

三田 50歳過ぎると「労働価値はもうない」っていうふうに、企業は見るわけじゃないですか。だから、50歳過ぎてから「さて、どうするか」って考え始めても、もう遅いですよね。

――日本では「金儲けしたい」って言っても嫌がられるし、転職もあんまりいいイメージで言われないですよね?むしろ1社に添い遂げる人を美化する風潮がある。

三田 まぁ、だから、まわりはそういうふうに思うかもしれないけれども……居酒屋でみんなで飲むときは適当に合わせておけばいいんです。で、家帰ってから、転職の準備すりゃあいいんですよ。みんなマジメだから、みんなが言ってることに自分も従わなきゃ、っていう強迫観念があるんですね。みんなと同じことを言っておかないと仲間はずれにされる、っていう恐怖感があるので。だから、「金汚いよね」「そうだよね」って。「やっぱりみんなでこの会社で頑張ろう」「そうだ、そうだ」ってなるんですよ。

――たしかにまわりに合わせますよね。同調圧力が強いというか。

「儲けたいと思わないかぎり、一生儲からない」<br />『インベスターZ』三田紀房氏に聞くお金のこと<最終回>

三田 でも、そうすると、最終的に「貧乏くじ」引くのは自分なんですよ。「お金もない」「つぶれかけの会社に今もいる」みたいな。

 はっきり言って、機転の利くやつは、みんなと「そうだ、そうだ。みんなで頑張ろう」って言いながら、家に帰りゃあね、「この会社ヤバいな」って言って(笑)、次の準備始めてるわけですよ。で、そいつが辞めてから「クソッ!あいつ辞めやがった」ってなるわけじゃないですか(笑)。

 山一証券だって、優秀なトレーダーの多くはつぶれる前に辞めてるんですよ。「もうヤバいぞ、ここ」って言って。で、「会社は悪くないんです」とか言って残ったのは、なんとかなると思って「みんなでがんばろう!」ってやってた人なんですよね。

 だから、そういう悲劇を味わう前に、やっぱり準備はしてないとダメですよ。みんなが言ってるからといって鵜呑みにしててはダメ。会社にいると「ずっと赤字だけど、なんとかなるんじゃないか」「みんなで頑張れば乗り越えられる」みたいなこと言うんですよ。そういうところは、とっとと見切り付けて次に向けて準備しないと。もうそういう時代に入っているから。

 ちゃんと「表の顔」と「裏の顔」を自分で用意しておかないといけない。いい人ぶって「みんなと頑張らなきゃ」なんてやってたら、この先どうなるかわかりませんよ。

――なるほど、これはすごい現実的な解決策ですね。「同調するか」「本音を言うか」じゃなくて、「同調しつつ本音で生きる」という。

三田 本音は公言する必要はないんです。思っていればいいんですよ。「表も裏も一緒じゃなきゃ汚い人間だ」みたいに思うかもしれないけど、いいんです。外面さえよくしておけば。で、みんなと適当なこと言って、その場を取り繕っておけばいいんです。そこでの会話が本当だと思って家に持って帰るから、みんな悩んじゃうわけなんです。みなさん、マジメだからね。

――「こっそり株やる」とか「こっそり転職活動してる」って、なんだか悪いことをしているかのように思ってしまう。

三田 それは誰に対して悪いのか、と。誰を意識して悪いと思うのかが、俺、まったく理解できないんですよね(笑)。そんなね、自分が思うほど、他人ってね、関心持ってないから(笑)。誰に対して悪いと思うのか、まったく理解できない。

――言われてみればほんと、そうですよね。結局、損するのは自分なんだから。自分が責任を取る、自分の人生なのに、誰に気を遣ってるんでしょうか……。