「意図的な練習」とは、単に何千時間を費やせばいいということではありません。本の中にデンマークのボート競技選手のことを書きましたが、彼は「努力あるのみ。楽しくなかろうが、とにかくやるべきことをやる」と言っています。

 私は18歳のころ、夏を日本で過ごしたことがあるのですが、「努力あるのみ」という意味では、同じような人たちに出会いました。彼らは一心に練習していました。ですが、頭を使った練習ではありませんでした。「やるべきこと」の検討が欠けているのです。

 弱点を見つけてそれを改めるような練習でもなければ、戦略的に弱点を克服しながらやる練習でもありません。単に長時間やっていただけです。

 練習は頭を使わないといけません。練習は問題解決でなければなりません。日本だけではなく、アジアには「長時間やればいい」という風潮がありますが、「どのように練習するか」を考えなければなりません。

 また、アジアの文化では「家族のため」など、義務感から頑張るような風潮があります。米国文化の長所は、米国人は自分が好きなこと、楽しめることをやることです。米国で非常に成功した人たちを見ると、本当にやりたいことをやっているということが多いです。

情熱のない粘り強さは重荷になるだけ

『やり抜く力 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』
アンジェラ・ダックワース 著
神崎朗子 訳
(ダイヤモンド社 1600円)
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──日本でこの本の翻訳が出たばかりですが、日本人にとって大いに示唆に富んだ本です。日本の読者にメッセージをお願いします。

 この本のメッセージは、「誰もが頑張れば、ハーバードに行ける」とか、「頑張れば何でも達成できる」ということではありません。誰もが、アインシュタインやモーツァルトになれるわけではありません。

 大事なのは、自分がどのような人間になりたいか、ということです。例えば「正直な人間になりたい」「人に優しい人間になりたい」「クリエーティブな人間になりたい」など、本書で詳述した「グリット」以外の要素でも価値ある要素はたくさんあります。

 ここには「いい人生とは何か」という哲学的な問いがあると思います。「いい人生」とは、一つの要素ではありません。いろいろな要素が含まれます。いずれにしろ、「いい人生」というのは、日々成長している人生だと思います。そのために本書の知識は役に立つはずです。

 また、私は日本人の「粘り強さ」については昔からずっと称賛しています。アジア人の親は、勤勉をよしとします。でも、子どもに遊び心を持たせて、本人が本当に興味があることをさせないと、子どもが本当の自分になっていくことができません。

 興味がないことをさせても退屈なだけです。「情熱」のない「粘り強さ」は重荷になるだけなのです。このことを心に留めておいてもらえたらと思います。