カジュアルさでより「哲学」を身近に

『読まずに死ねない哲学名著50冊』(フォレスト出版)、『超訳 哲学者図鑑』(かんき出版)、『大学4年間の哲学が10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)など、見るからにやわらかい哲学書が各出版社さんから発売されてきて、どれも人気です」(中里氏)

 それらすべての哲学本に共通しているのが、「哲学をわかりやすく、やさしく解説する」本であることだ。どの本も女の子やかわいいイラスト、または柔らかい色合いのカバーで、「哲学=小難しい」というイメージを払拭。

 これまで哲学の“て”の字も勉強してこなかったビジネスパーソンが、「知的欲求」「ビジネス教養」の入門書として手に取りやすいのが特徴だ。

 さらに敷居は下がる。
 今年3月、かねてから「将来の夢は哲学者」と公言するNMB48の須藤凜々花さんが、哲学本『人生を危険にさらせ!』(幻冬舎)を政治社会学者・堀内進之介氏との共著で出版。

『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』
原田まりる・著/定価1400円+税
ニーチェ、サルトル、キルケゴールら哲学の巨人たちが、現代人の姿をして京都にやってきて、17歳のアリサに“哲学する“とは何か、を教えていく哲学エンターテインメント。

 続いて、元「風男塾」のメンバーであり、現在は哲学ナビゲーターとして活躍する原田まりる氏が『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた』(ダイヤモンド社)を発売し、こちらも2万部を突破している。

 ファンの間では「ニー哲」と呼ばれている本書は、現代に降り立ったニーチェやキルケゴール、サルトルら哲学者が、17歳の女子高生に「哲学する」ことを教えていくという小説。カバーに描かれたイラストのイメージから若い読者が多いのかと思いきや、こちらも30代、40代のビジネスパーソンから感想が多く寄せられているという。

「30代、40代のビジネスマンの読者の方からも『職場で理不尽なことがあったときに立ち向かえる勇気をもらった』『この本を読んで転職の決意が固まった』など、ビジネスシーンでの励みになったというご意見を多くいただきました。哲学者の教えを知ることでより、ビジネスや人生に対する向き合い方が変わったという方がたくさんいらっしゃるようです(原田氏)

 では、書店以外ではどうだろう。16年前から日本各地で「哲学カフェ」を開催しているカフェフィロの副代表・三浦隆宏氏もその流れを感じているひとりだ。

「以前は、参加者の顔ぶれもご年配の方から主婦の方、学生など様々でしたが、今はビジネスパーソンの方が増えている印象は受けますね。先日長野で行った哲学カフェのメンバーはほとんど、起業家の方、経営者の方でした」(三浦氏)

 哲学カフェとは、あるひとつのテーマに対して、参加者たちが自由に語り合う場で、大小問わず様々なグループが開催している。

「経営者や起業家の方など、ビジネスパーソンが集まったグループで特に印象的なのは、皆さん他の方の発言、考えを自分の中に取り込もうとしているところです。一般的な哲学カフェの場合、テーマに対してみんなでそれぞれの考えを語り合うのですが、ビジネスパーソンのグループの場合、みなさん他の方の発言から何かを学ぼう、吸収しようとされている印象です。そこに何かビジネスのヒントがあればと考えているようですね」(三浦氏)

 さらに、昔から哲学に興味があっても「実利になりにくい学問」であることから、大学で違う学部にいった人たちが、社会人になり、少し余裕がでた頃に「やってみたかった勉強」として哲学の本を読み始めている可能性もあるのでは、と三浦氏。

「教養」「学びなおし」の視点で見れば、やはり「世界史」「日本史」の次に来る流れは、「哲学」ブームとみて間違いはないようだ。