今、ビジネスパーソンの間で「哲学」ブームが起きている。書店の店頭では続々と「わかりやすい」「入門」をイメージさせる書籍が並び、雑誌の特集が組まれる。なぜ、今ビジネスパーソンは「哲学」を求めているのか?
「哲学」がビジネスの世界へ
今、ビジネスパーソンの間でじわじわと「哲学」ブームがおきている。
いや、「今ごろ哲学?」「もっと前に流行っていたじゃん」という声もあるだろう。
確かに、2010年1月には一大ブームを巻き起こした『超訳 ニーチェの言葉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)が発売され100万部を突破、同年4月にはハーバード大学教授、マイケル・サンデル氏が出演したNHK『ハーバード白熱教室』が日本で放送され、社会現象に。講義を基に書かれたサンデル氏の著書『これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学』(早川書房)も90万部を突破するベストセラーとなった。
が、後に「超訳」本がたくさん発売されたり、「白熱教室」に注目が集まったりしたところを見ると、哲学ブームというよりは、「超訳」、「ニーチェ」「ハーバード」「白熱教室」「マイケル・サンデル」という、哲学をどう取り上げるか、誰が取り上げるかに注目が集まり、流行したとも思える。
しかし昨年、書店の店頭を中心に「哲学」そのものに注目が集まり始めた。
はじまりは『哲学用語図鑑』(プレジデント社)の書店店頭での大展開だ。タイトル通り、様々な哲学の用語がかわいいイラストとともに解説される本書には、「ビジネスにも交渉にも役立つ、教養としての哲学思考」という一文が帯に書かれている。
つまり、タイトルこそ「哲学」書だが、そもそも本書は、「哲学」を教養として身に着けたいビジネスパーソンを読者ターゲットに置いているのだ。
結果、書店でも「話題書」「ビジネス書」のコーナーで平積みされ、10万部を突破。
以降、書店の店頭では「哲学」とタイトルに謳った書籍が多数並ぶことになるのだが、すべてに共通しているのが、読者をビジネスパーソンとして設定している点だろう。
なぜ、「哲学書」が「ビジネス書」として発売されるようになったのか?
ビジネスパーソンの知的欲求
今年9月に発売され、3カ月で4万部を突破した『いま世界の哲学者が考えていること』(ダイヤモンド社)も、ビジネス書コーナーで売れている書籍だ。
岡本裕一朗・著/定価1600円+税
「人工知能」「遺伝子工学」「テロ」「宗教問題」……いま、世界の哲学者が考えている人類の未来の姿とは? 21世紀最先端の哲学者たちが何を問い、何を論じているかをわかりやすく解説。
「確かに、『いま世界の哲学者が考えていること』はビジネス書のコーナーで売れていますね。本書は、中身が人工知能や遺伝子工学、格差社会など、ビジネスパーソンが今最も興味のある題材が取り上げられているところが売れている理由ではないでしょうか」(紀伊國屋書店新宿本店 中里課長代理)
同書店では、このヒットを受けて「『いま世界の哲学者が考えていること』フェア」も展開した。同様のフェアを開催している書店は続々と増えているという。
先のコメントにもあった通り、本書の特徴は、過去の哲学者たちの言葉や考えを解説する従来のものとは一線を画し、日々メディアを賑わせているトピックス「人工知能」や「テロ」「遺伝子工学」などの問題を、「今」世界の哲学者たちがどう考え、どう発言しているかを解説している点にある。
ビジネスパーソンが毎日新聞やテレビ、ネットなどで目にし、耳にしているキーワードを、「哲学」という教養を介して解説してくれている。
著者である玉川大学文学部教授・岡本裕一朗氏も、「この本を発売してからビジネス分野からの問い合わせが相次いでいる」という。
「ビジネスパーソンが読む雑誌の取材、ビジネスパーソン向けの講演依頼など、これまでとは違う方々からお声がかかっているのは事実ですね。僕も学生や卒業生たちから『先生の本がビジネス書のコーナーに並んでいるよ』と連絡をもらっています」(岡本氏)
ビジネス書のコーナーに「日本史」「世界史」などの解説本が並んで久しいが、今、「哲学」にもその現象が起きているのだ。