創業181年の老舗で
成功した残業削減のコツ

 古川紙工株式会社(岐阜県/美濃和紙の加工)は、オリジナルの紙製品の製造販売とOEM供給を行う会社です。創業181年。古川慎人社長は8代目です。

 古川社長は、伝統を継承することのメリットを感じつつも、事業自体に行き詰まり感を覚えていました。
 同じやり方を続けていると、発想が浮かばなくなってくる。それに、人が定着しません。

「会社に伝統はあったものの、社員を定着させる仕組みがなかったのです。私自身、前職はサラリーマンで、経営者の体験もありません。だから、なんやかんやとごまかしながら、社員を説得していました。でも、そのやり方で社員を止めておけるのは、せいぜい3~4年です。その後は多くの社員が辞めていきました」(古川社長)

 社員が辞めた理由のひとつは、古川社長が若者のトレンドを見誤っていたことです。

「自分ががんばれば、社員も遅くまでがんばってくれると思っていましたが、それは私の思い違いでした。社長の仕事は、社員と一緒になってがんばることではなく、残業や休日出勤を減らす仕組みをつくることだったのです。
 そのことに気づいて、まず、水曜日をノー残業デーにし、土日出勤を禁止にした。『終わりの時間』も決めて、幹部社員も夜8時に会社を出ています。どうしても残業が発生するときは、残業申請書の提出を義務づけています。
毎週月曜早朝の幹部会議は、仕事の進捗状況をチェックし、『どうすれば残業を減らすことができるか』を確認し、共有しています」(古川社長)

 残業時間が減って、「新卒採用時に会社のイメージアップにつながった」と言います。

「当社は、デザイナーの採用が多いが、一般的に、『デザイナーの仕事は夜遅くまで働くのが当たり前』と思われています。
 若手デザイナーが、有名デザイン事務所に就職した大学時代の同級生から『終電で帰るのが当たり前な大手デザイン会社より、小さくてもいいから残業が少ない会社に就職すればよかった』と言われたそうです。
 長時間働いたほうが実力がつくという考えがある一方で、これからの時代は、『短い時間で、チームとして実績を挙げていく』という能力が求められている気がします」(古川社長)

 福谷社長も古川社長も、業界の常識や伝統にとらわれず、「これまでとは違う考え方」「これまでとは違うやり方」に目を向けた。だからこそ、「残業が少ない会社」「人が辞めない会社」に変わることができたのです。