英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今週は「It's official(正式です)、日本が世界第3位の経済大国になりました」というものです。中国が日本を抜いて2位になるというのは、去年8月の時点ですでに英語メディアが大々的に報じていたので今更ですが、この「It's official」という部分がニュースです。そして、順位入れ替えが正式になったのを機に改めて、日本を追い抜いた中国が日本のようにならないだろうかと懸念する声を散見しました。(gooニュース 加藤祐子)

世界3位が正式に

 先週はわたくしごとでコラムをお休みしてしまい、申し訳ありませんでした。英語メディアはこのところエジプト情勢がドーンと紙面や画面の中心を占めています。日本の大相撲八百長問題や小沢氏の進退についても記事はありますが、とりあえず、国際システムの在り方そのものの一大変革につながりかねない、地政学上の要所エジプトにおける革命を、固唾を呑んで注視してきたわけです。チュニジア発の反政府抗議がエジプトからさらに、アルジェリア、イエメンへと飛び火し、いよいよイランでも?――という目下の情勢で、日本情勢ニュースに紙面や画面を確保するのはさぞや大変だろうなあと思いつつ、それでも記事が載るスペースがあるのがネットの良いところだなとも。

 というわけで、冒頭でも書いた「It's official」なニュースについて。日本の内閣府が14日発表した2010年の名目GDPがドル換算で中国を4044億ドル(約35兆円)下回り、日 本は経済規模で米国、中国に次ぐ世界第3位に後退しました。同年の実質GDPは前年比3.9%増で、リーマン・ショック前の07年以来3年ぶりのプラス成長だったというのが、なんだか皮肉ではあります。

 英『フィナンシャル・タイムズ』のBRICs担当ジョナサン・ウィートリー記者は記者ブログで、 この2位交代は「何カ月も前から指摘されてきたし、国の富としてもっと意味のある指標の購買力平価について言えば、中国は約10年前に日本を追い越している」と説明した上で、それでも14日の統計は「転換点となる」と書いています。「日本の経済は昨年末の失速から回復するだろうが、それでも長い目で見れば、ひとつの分水嶺に到達したのは疑いようもない」と。

 とはいえ同紙のアジア編集長デビッド・ピリング氏が今年初めに書いたように、購買力平価と同じくらい大事なのは国民一人当たりの実質所得だろうし、それよりさらに大事なのは国民ひとりひとりの豊かさの実感だろうと、私も思います。それで考えれば、日本人してそんなに「わあああ、3位に転落したああああ」と悲憤慷慨するようなことだろうかと私個人は思っています。

日本を知る人が中国を見ると

 ちなみに、生活実感のない国や地域について軽々しく書かないことを私は個人的ルールにしているのですが、逆に言えば日本で生活した経験のあるピリング氏にはこう書くだけの根拠がある。データの表面だけ見て判断するのではなく、現地事情や現地の生活実感を理解した上で、名目GDPで日中の豊かさを単純比較するのは変だろうという意見には説得力があります。そしてBBCの上海特派員になる前は東京特派員だったクリス・ホッグ記者も、もしかしたらそういう思いなのかもしれません。

 「成長を急いだ中国は後悔するかもしれない」という中国・武漢発の記事で、ホッグ記者は、中国が日本を追い抜いて世界2位の経済大国になったのは確かに「ランドマーク的=画期的」偉業だが、「当の中国国内で はあまり注目されていない話だ」と冒頭から指摘。「それはもしかしたら、中国に暮らす人たちにとって大事なあまりに多くの事柄について、中国はアジアの隣人に大きく遅れをとっているのが、誰の目にも一目瞭然だからかもしれない。中国には膨大な人口がいる。ということはつまり、一人あたりの平均所得は日本の数分の一しかないというわけだ」とも。

「日本を追い抜いた」ことが中国でさほど大ニュースになっていない理由はそれに加えて、「現在の成長モデルが長期的にはどれだけまともで持続可能なものか、急成長を追いかける代償は何なのか、懸念されているからかもしれない」と記者は書きます。

「中国中心部の武漢は北京や上海ほど有名ではないが、北京や上海よりも色々な意味で国らしい場所と言える」、「この街は灰色の靄に覆われている。住民は、地域の工場から出る公害のせいだと言う」、「市当局は中央政府の目標より高い、5カ年で年12%増の経済成長を目指している。このため中央政府は、こういう地方都市で景気が過熱しすぎないか懸念している」とも。

 記事は外資企業で働く若いホワイトカラー男性が、未来への期待に溢れて自信満々だと紹介。家を買ったばかりのこの男性にしてみれば、武漢市内の不動産価格がうなぎ登りに上がっているのも好都合な話だと。市内の普通のマンション価格は今や、平均給与所得の29倍もするのだとか。

 ……平均所得の29倍って、仮に日本の世帯あたり平均所得を約550万円として(厚労省調査より)比較した場合、約1億6000万円です。それが「average apartment(平均的なマンション)」の値段だと言われると、ちょっと困惑してしまいます。

 記事では武漢大学のウェン・ジアンドン経済学教授が「短期的には、現行の成長パターンはとても有効だ。不動産売買やインフラ建設でGDPは急成長する。しかし長期的には、あまりに多くの問題をはらんでいるので、経済成長にとってマイナスとなりかねない。そもそも地方政府の債務がふくらんでいる。それに長期的に何か問題が起きても、担当の役人たちはとっくに別の場所で違う仕事についているだろう」と懸念します。

 不動産投資とインフラ整備の公共投資を優先した経済運営の果てにどうなって、そして政策担当者たちが責任をとらない……なんだかどこかで聞いたことのあるような話です。

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