「これ、今度の製品の…○○市でのお客様事例です…」
(そう弱々しくつぶやきながら、事例パンフレットをおずおずとお客に差し出す……)
これが、ソフトウェア会社に勤めていた37歳の私が、生まれてはじめて口にした営業トークでした。社会に出てから15年のあいだ、翻訳者、技術者、マーケティングなど、ずっと内勤。外の顧客に会うことのなかった私がついに営業というものにデビューすることになり、ある市役所で職員の人に向けて、やっとのことで発した第一声、それがこのトークになっていないトークでした。
ところがこれが成功してしまったのです。市職員は私が持っていた「○○市の導入事例パンフ」を手にとって見てくれ「価格はいくらか?」「この機能は具体的にどういうものか?」と興味を持って質問してきました。
せっかくの顧客の好反応を
ろくにフォローもせず放置…
しかし、せっかく質問してもらったにもかかわらず、知識不足で上手く答えられなかった私は、半ばやけくそで「価格も機能の詳細もホームページに書いてありますから」と言いおいて会社に戻ってしまいました。こんな情けない対応では、とうてい成約など望めはしないと半ばあきらめ気分で、その後は、顧客へのフォロー連絡も怠り放置したままでした。
ところがそれから2ヵ月後、何とその職員から「見積希望」という件名のメールが突然届いて、結局、成約ができてしまったのです。金額は約200万円。価格や機能はお客が本当にホームページを見て自分で調べていました…。
これが37歳だった私の人生初の営業成功の一部始終です。成約記念の飲み会で、同僚営業マンに「よくやったね。おめでとう」とビールをついでもらいながら、どうも不思議な気分になりました。