カネサ鰹節商店では手火山式焙乾法という当時の製法を守っている。手火山式焙乾法は下に薪をくべて直火の高温で一気に表面を固めてしまう。焦げるリスクが高く、職人がかかりきりで作業しなければいけない。作業は10回から15回に及ぶ。表面を固めてしまっているので中に水分が残るが、カビの力でゆっくりと抜いていく。結果として確実においしい鰹節ができる、というわけだ。伊豆田子地区は時代から取り残されたがゆえに、きわめて効率の悪い方法が残ったとも言える。

「効率よりもおいしさを求めるという形になります。田子は海があってすぐに山なので鰹節製造にはすごく立地条件が良かった。薪もこの地区でとれたものを使うというルールになっています。ナラ、クヌギ、コナラ、サクラをうまくブレンドして、焙乾していくという形です」

工場の裏手はすぐ山で、かつてはそこから薪をとっていたようだ

 伊豆の山は人の手が入った山だ。植林された山は手入れを続けなければ保水能力が落ち、大雨が降ると土砂が流れ出し、海の生態系を壊してしまう。

「地元の木を使うルールは山を守りなさい、という知恵だったのだと思います。鰹節をつくるために山から木を切り出し、手入れし続けることで、魚が獲れる。そして、魚からつくった肥料を山に戻す……という循環ができていたんですね」

 日本の風土から生み出された鰹節。その出汁を味わえるのは先人達が文化として残してきたからだ。いまや潮鰹も本枯節も絶滅危惧種。文化の継承は簡単ではない。

「鰹節を削る文化がそもそもなくなりました。食育などの活動もしていかなければいけない、と思っています」

 出汁は日本の食文化の根幹。鰹節はそれを支える重要な食材。年のはじめくらいは日本の食文化を未来に残すために、鰹節から出汁をとってみたらいかがだろうか。

(取材・文/小説家・料理人 樋口直哉、写真・映像/志賀元清)