クリントン優勢の予測を
覆えした「社会的望ましさ」

 米大統領選のトランプ氏の勝利は、アメリカのみならず、世界で驚きをもって伝えられた。就任直前となった今でも、彼の過激な言動は常に話題になっている。

 以前にもこのコラムで述べたが、クリントン氏優勢だった前評判を覆した裏には、有権者の「社会的望ましさ」が働いていた可能性が高い。政治的に正しくないことや社会的に望ましくないことは公の場では言えない、という社会的な規範が、有権者へのアンケート調査の際に働き、本音ではトランプの政策を支持していても、それを他人には言えないという心理が、大統領選の予測失敗につながった。

 この「社会的望ましさ」が働くのは、当然ながら「自分の意見が他人に知られる」場合だ。これは他人を気にするために起こる一種の「心理バイアス」である。個のバイアスは、普段は人間関係や社会関係を円滑にするために一役買っている。一方、投票が無記名で他人に自分の投票を知られる可能性がない(あるいは非常に低い)と、社会的望ましさを気にせず、本音を表明できるため、多くの人々の予想とはちがった現象が起こったように思うのだ。

 そんな社会的な望ましさを、あまり気にせずに済む(と思われている)のが、SNSなどのネット上での発言だ。フェイスブックは別としても、ツイッターや他のネット掲示板は、匿名性が高いか、犯罪に関わらない限り、ほぼ完全に匿名だ。

 こういう状況ならば、他人の目を気にする必要なく「本音」が吐ける。程度の差こそあれ、そう思っている人が多い。少なくとも実生活で人と会っているときより、言いたいことを言う人は多いだろう。そのため、そして自身の発言をきっかけに「レスバトル」や「炎上」が始まるケースもある。

 中にはトランプ氏や他の政治家のように匿名ではないにもかかわらず、炎上を繰り返す場合もある。何がそうさせるのだろうか。

自分が望む情報だけを
得ようとする「確証バイアス」

 レスバトルや炎上が起こる背景には、さまざまな心理バイアスが関わっている。例えば社会心理学でいう「確証バイアス」と呼ばれるものがそれだ。