アルファ碁の進化スピードは超絶的で、プロ二段(欧州チャンピオンのファン・フイ)を破ってから、イ・セドル九段を圧倒するまで5ヵ月。それからこの神の領域まで達するのに9ヵ月しか掛かっていません。

 この世の誰が一体、この進化スピードを予測していたでしょうか?

ヒトはAI進化速度を予測できない

 打ち手がほぼ無限にある囲碁は、もっともAIが苦手な分野だと長く信じられてきました。状況判断(その時点で優勢か劣勢か)の判断が難しい上に、何手も先の先を読むプログラムをつくるのは至難の業でした。

 しかし2005年に「モンテカルロ法」をベースにした「Crazy Stone」が開発されて、状況は一変します。その名の通り、とにかく多くのサイコロを振る(打ち手をランダムにシミュレーションする(*1))ことで、その勝ち負け予測をして手を決めていきました。

 モンテカルロ法は並列処理に向いているので、マルチコアCPUをフルに活かせますし、コンピュータを増やすことでいくらでも性能を上げられます。

 それでも多くの棋士や学者たちは懐疑的でした。2008年頃の常識は「プログラム(AI)がヒト(トッププロ棋士)に勝つにはあと50年は掛かる」でした。実際には8年でした。

 その力が急激に高まり、当初アマ三段レベルだったものがアマ六段レベル(もうすぐプロレベル)に上がった2014年ですらそうでした。「コンピュータが人間に勝つのは10年後」という認識でした。実際には2年でした。

 そして、ついに2016年イ・セドル(当時の世界ランク5位)が負けたときでも「アルファ碁にはまだ接近戦での凡ミスや、攻め合いの大勝負に弱い」「人類はまだ負けてない」という意見が根強くありました。でもそれも9ヵ月の命でした。

独自に自己を変異させられるAIの進化スピードは、世代毎の突然変異と自然淘汰を待つ、われわれ生命の進化スピードとはまったく異なります。ヒトはAIの進化スピードを予測できないのです。

 そして、その到達レベルも。

*1 2006年トリノで用いられたCrazy Stoneでは1秒あたり約5万件の対局シミュレーションがランダムに実行された。