EUは、ドイツだけは好調だが、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、イタリアなど経済的に困難な国々を域内に抱えている。しかも、EUは加盟国に対して財政赤字をGDP比の3%に抑える義務を課している。厳しい緊縮財政を強いられることで、景気悪化に対して、一国の政府の独立した判断で対策を打つことが事実上できない。

 経済対策の独立性・柔軟性を奪われたこれらの国では、失業に追い込まれた若い労働者が職を求めてドイツに移動している。それは、ドイツ経済を成長させる。しかし、ドイツ「独り勝ち」状態には、不平・不満が広がっている。

 また、EU域内では、極右政党への支持が高まり、「懐古主義的なナショナリズム」(第148回)が広がっている。5月に予定されるフランス大統領選では、マリーヌ・ルペン国民戦線党首が決選投票に残るだろう。大統領に当選する可能性もある。秋のドイツ総選挙でも、極右政党台頭の可能性が取りざたされ、投票結果によってはアンゲラ・メルケル首相の退陣があるかもしれない。「政治的な不安定性」は、EUの大きなリスクである。

 一方、「トランプ現象」と同一視されがちな英国の「EU離脱」だが、懸念された国民の「分断」は、実は起きていない。メイ政権は、「残留派」だが移民問題には最強硬派のメイ首相や、「離脱派」なれど規制緩和・外資導入・英連邦のネットワーク重視のボリスジョンソン外相など、「一筋縄ではいかない人物」の混成チームだ。

 一方、ナイジェル・ファラージ英国独立党党首が政界引退するなど、「強硬な離脱派」は表舞台から去った。離脱決定後に「Bregret(英国の後悔)」という言葉が生まれるなど、離脱は「やりすぎた」という空気が広がり、国民の対立は、次第に緩和している。英国の「政治的な安定性」は十分維持されているのだ(第135回・p4)。

 経済についても、離脱決定直後にポンドが暴落するなど不安視されたが、現在では安定している。そもそも、EU離脱を問う国民投票で敗れ、退陣したディビッド・キャメロン首相は、経済財政政策は成功し、高い評価を得ていた(第106回)。EU加盟国の中で、英国の経済状況は、常にトップクラスだ。

「EUの単一市場」から離脱することのデメリットが指摘されているが、「泥船」のEUと付き合うよりも、はるかに将来の成長が見込める経済圏を、英国は潜在的に持っている。「英連邦」54ヵ国のネットワークである。南アフリカ、ナイジェリア、オーストラリア、カナダなど資源大国、人材・ハイテク大国であるインド、現在最も成長している東南アジア、今後「世界の工場」となるアフリカ諸国の多くが参加するネットワークである。

 この連載で英連邦を取り上げた時は、まだその潜在力の高さを指摘するにとどまっていた(第134回)。しかし、メイ首相、ジョンソン外相らは、英連邦諸国への外遊を繰り返し、EU離脱に備えて、「経済圏」の再構築に動き始めている。