昨年秋には、メイ首相がインドのモディ首相を訪問した。首脳会談でモディ首相は、EU離脱後の英国の移民政策の変化に懸念を表明した。「インドから英国の大学への多数の留学生の地位を、EUからの移民と同じと考えてもらっては困る」とメイ首相に強く訴えた。メイ首相は、「心配はいらない。善処する」と答えるしかなかった。また、メイ首相は今年に入り、英連邦の主要国であるオーストラリア、ニュージーランドなどと新たな通商交渉を開始する表明している。

 さらにスコットランド独立の懸念だが、EUとの離脱交渉が続く間に、その動きは消えるだろう。スコットランドは「連合王国」4国の一角であり、その中で広範な自治権を認められている。北海油田を持つスコットランドは、「盟主」であるイングランドよりも良好な経済状況を誇り、独自の福祉政策を展開している。

 しかし、スコットランドが単独でEUに加盟すれば、「連合王国の一角」という地位を失い、ただの一小国となってしまう。現在認められている自治権は制限され、画一的に緊縮財政を強いられ、福祉政策も制限される。経済状況の悪い国からの移民を引き受けなければならなくなる。スコットランドが単独でのEU加盟に、何のメリットもないと気づくのに、時間はかからないはずだ。

「生存圏」確保のために
ロシアとドイツは接近する

 この連載では、EUが世界の「ブロック化」の流れの中で、脆弱性があることを指摘してきた(第145回)。特に、「生存圏」を築くために重要な、「エネルギーの自給」について問題がある。EUは、ロシアからのガス・パイプラインへの依存度が高い。そのため、原子力や再生エネルギーを利用する「エネルギーの多角化」を進めてきた。

 しかし、フランスなどが推進する原子力は、福島第一原発事故後、展望が不透明になり、ドイツなどが積極的である再生エネルギーは、補助金依存の高コスト体質を変えられないままだ。このままでは、EUは「ブロック化」の流れの中で、没落するしかない。だが、それでもドイツに戦略がないわけではない。

 そもそも地政学的にみれば、EUとは、ドイツの「生存圏」のためにあるという見方が存在する。前述の、EU域内の緊縮財政の強制は、ドイツによる欧州諸国の経済的掌握という意味合いがある。そして、ドイツの移民政策によって、スペイン、イタリア、ポルトガル、ギリシャ、そしてフランスから若い労働者がドイツに移動し、ドイツ経済だけが独り勝ちする構図だ(エマニュエル・トッド、2016)。

 ドイツの「生存圏」確保の戦略は、西欧の中堅国に対してだけではなく、EUの東欧圏への拡大によって、東西冷戦終結後の20年間、一定以上の成功を収めていたといえる。この連載では、そのことを「冷戦終結による東欧、中央アジアの民主化で、ロシアは遥かベルリンまで続いていた旧ソ連時代の『衛星国』をなくしてしまったのだ。いまや東欧は民主主義政権の下で、『EUの工場』と呼ばれる経済発展を遂げているのである。ウクライナ分裂は、ロシアの勢力圏縮小という大きな流れの中で、かろうじて繰り出したカウンターパンチ程度でしかなかったということだ」と指摘してきた(第84回)。この「ロシアの敗北」は、裏返せば、「ドイツの勝利」である。