論理的思考、批判的思考、
システムズ・シンキングを要素分解する

これらの思考法はさらにいくつかの要素技術にブレークダウンできます。個々の思考法の要素技術をすべてリストアップするのは難しいので、ここではこの3つの思考法の要素技術の中でも大事なものを下記のようにリストアップしました。これらの観点からトランプ大統領を見てみましょう。

・正しく論理展開ができる
・物事を疑い、本当かどうかを考えられる。事実とそうでないものを峻別できる
・重要な点とあまり重要ではない点を峻別できる
・全体を俯瞰できる
・物事の関係性や因果関係を正しく捉えられる
・物事を全体像として捉え、要素間の相互関連性などを理解し、その挙動を予測できる
・数字を正しく扱える
・自分自身を省察し、思考の落とし穴に嵌っていないかを見極められる

このようにリストアップしてみると、不安を感じる人が多いのではないでしょうか。たとえば彼は、「ラストベルト」に代表される工業地帯の雇用を増やす政策を打ち出しましたが、そもそもアメリカで従来型の製造業の占める重要度は下がっています。そこで雇用を確保するために、日本やメキシコをはじめとする友好国との摩擦を増すことが妥当なのかは疑問です。

数字やファクトに基づいた議論になっていないと感じる人は多いでしょう。あるいは、自分の打ち出す施策がどのような効果をもたらすかを認識していないという意味で、物事の因果関係をしっかり捉えられているのかも疑問です。特に国際経済やグローバルな外交・安全保障は複雑な事象が絡み合って動くものですが、その部分に関する意識は弱いように思われます。

物事を単純なモデルにして考えることは、学者がよく用いる思考方法ですし、ビジネスや政治の場でも有効な場面は少なくありません。ただ、トランプ大統領の場合は、複雑な問題を単純化しすぎて考えてしまい、何かをしたときに起こるであろう副作用にあまり意識を払っていないように見えて仕方がありません。これは非常に危険です。

あるいは、すでにアメリカ国内でも指摘されているように、彼がテロ脅威国としてリストアップした7ヵ国の中に、自分のビジネスと強く関連する国(例:トルコ)が含まれていないことも問題視する声があります。

アメリカの大統領であるならば、自分の損得以上に国民や世界のために考えるべきなのに、それができていないのはいかがなものか、自分自身に対する省察が弱いのではないかという主張には一定の説得力があります。

また、9.11同時多発テロでは最も多くのテロリストを出したサウジアラビアが7ヵ国に含まれていない点を疑問視する向きもあります。トランプ大統領なりの軽重のつけ方や深謀遠慮があるのかもしれませんが、その意図は必ずしも明確ではありません。

他にも例を挙げればきりはないのですが、世界で最もバランス感覚が要求されるポジションに、バランス感覚の弱い人が来たということは言えそうです。