◆アンドロイドは人間のように夢を見るか
◇機械はやがて人型になる

 日本のアンドロイド研究の第一人者である石黒浩(いしぐろ・ひろし)は、2007年にCNNの「世界を変える8人の天才」に選ばれ、同年、英 Synetics 社の「世界の100人の生きている天才」で26位になった、世界中が注目する研究者である。

 私たちが人間型ロボットに興味をもつ理由として、石黒は人のもつ「人を認識する機能」をあげる。現在のスマホや携帯は、人間にとって理想的なインターフェースではない。最も理想的なインターフェースは人のカタチをしたものである。そして、その人間らしさの究極系としてあるのが、アンドロイドだというのだ。

「最も理想的なインターフェースは人そのもの」という石黒の発言にたいし、疑問を覚える人も多いかもしれない。実際、今の工業用ロボットや携帯電話は、人のカタチをしていないのも事実だ。しかし、子どもたちのふるまいに目を向ければ、その発言の真意が見えてくるだろう。子どもはまねをするとき、人の動きだけを見ており、機械の動きのまねはけっしてしないのだ。

◇心なんて本当は存在しない

「人に心はなく、人は互いに心を持っていると信じているだけである」――石黒がこう考えている背景には、感情がなく、怒ることが一切できなかった幼少期の経験が大きく関わっている。現在怒ることができるのも、大勢の人間をたばねるときに必要だったため、がんばって練習したからだ。昔は「人」、「気持ち」、「考える」、そのどれも理解できなかった石黒だからこそ、「人間には心が問答無用に備わっている」という見方には反対である。

 石黒の考えでは、人と機械のあいだには「そもそも境界がない」。というのも、人間はもともと自分の力だけで進化するのではなく、技術をつくりあげることで、自分の可能性を引き出してきたからだ。そういう意味では、今になって機械が人間のようになってきたという話は、そもそもナンセンスだともいえる。

◇ロボットの雇用問題

「人間」を定義することはむずかしい。「意識がある」、「考える」といった曖昧なものはすべて定義たりえない。そう考える石黒に対し、海猫沢は疑問をぶつけた。仮に人間と同じようにふるまうものを「人間」としてとらえたとき、アンドロイドをはじめとするロボットに人権を認めるという話になるのか。

 海猫沢の疑問に対する石黒の答えはこうだ。人間は機械よりもすぐれていると考えたがるが、それは差別である。とはいえ、差別がなくなったら今度は能力で区別することになる。そうしたとき、ほとんどの人間はコンピュータやロボットに勝てなくなり、そのせいで将来、自分の存在価値を見失う人もいるかもしれない、と。

 もっとも、ロボットの発展にとって生じうる雇用問題について、石黒は楽観的に考えている。雇用の心配をしているのは、現状が変わらないと思ってる人たちだけであり、歴史を見ても、仕事の種類はどんどん変わっていっている。経済活動を活性化するためにロボットがあるのだから、またそこから別の種類の仕事が生まれてくると考えたほうが建設的だというのがその理由だ。

 ロボットの隆盛は、人間が生きることに対する挑戦だと石黒は考えている。今まで人間の遺伝子には、「生き残れ」ということしか書いていなかったが、これから先は、ある種のフィルタリングを経ないと進化はむずかしい。つまり、機械とくらべて、自分はどれだけ存在価値があるのかを、自分自身で納得できるような生き方が求められる社会になるはずだ。人間の生きる意味はまさにそこにあるというのが石黒の意見である。