2月の「今月の主筆」に迎えたカルビーの松本晃会長は、論理的でリアリティのある視点でカルビーの成長をリードしてきた。一連の発想の起点は、どのような体験にあるのか。(聞き手/「ダイヤモンド・オンライン」編集長 深澤 献)
「会社のお金」だから大胆にやれる。でも絶対に失敗はしない
――大学を出て伊藤忠商事を志望したのは、なにか理由があったのですか。
松本 いえ。学生ですから会社のことなど分からないし、お金をたくさんくれたらいいなぁ、ぐらいのものでした。実際、入社してみると、やはり想像していたものとは違いました。想像よりも「お金を儲けること」はずっと面白かったのです。
働いてみると、「面白いのは社長だ」と思うようになりました。組織の中にいると、やはり様々な制約があります。その意味で、トップと2番手の差は、2番手と最下位の差よりもさらに大きい、というのが私の実感でした。なにより、社長は決断できる。仕事は、自分で決断できるから面白いのです。その意味では、今はCEOなのであまり面白くないですね(笑)。
――決断する立場ではないからですね。
松本 CEOは、「このような方向、方針で」と大枠は示しますし、社長にアドバイスもします。でもそこまでです。本当に社長は面白いですよ。その代わりしんどい。社長はジョンソン・エンド・ジョンソンで9年やったからもう十分です。
そもそも私は、「カルビーでは4年以上はやらない」と言っていたのです。中継ぎのピッチャーのようなもので、6回のピンチに出てきて7回を締めたらクローザーなどに引き継ぐ。ところが実際は、上場があり、上場後も株価が右肩上がりだったので株主が、「あなたが辞めたら株価が下がる」とおだてる。だからいまだおだてに乗せられてやっている。人間はおだてやごますりに弱いですよ(笑)。人間ってそうでしょう。
――それをはっきりと口に出されるのが松本さんらしいところなんでしょうね。
松本 しかし、いつまでもおだてられていてもキリがない。おだては、そのうちドスンと落とされるものでもありますからね。
それと7年もやっていると、私のことを「あいつ、うるさいな」と思う人が多くなります。「カルビーの人間は儲けるのが上手ではない」と思うこともありますが、それでも皆さん一所懸命に取り組んでいることだからあまり口を出さないようにしています。僕の賞味期限もそろそろかなと、いつも思っています。
――就職して「社長になりたい」と思われたのはいつごろですか。
松本 25、26歳頃ですかね。サラリーマンは、社長でなくては面白くないとはっきりと自覚しました。ただ伊藤忠で私の所属していた部は、繊維やエネルギーなどの主流とは違い、マイナーな部隊でした。実績を上げてはいても、出世コースに乗っているとは言い難い状況で、社長は難しかったでしょう。
――独立は考えなかった?
松本 独立心はありません。なぜならそんな度胸がありませんから。言いたいことを言っているように見えて、実は気は小さいのです(笑)。だから人の褌(ふんどし)でなければ相撲が取れない。その代わり、人の褌ならば大胆にやります。そして絶対に失敗しません。
カルビーの経営を引き受けたのも、カルビーは勝ち馬だったからです。この勝ち馬は強い。だが、もっと強くなれる。なにをすれば強くなれるか、私には見えていました。それが会長就任以来、言い続けている「コスト・リダクション」と「イノベーション」だったわけです。
――自分のお金でやるのは、たしかにしんどいですね。
松本 そうです。会社のお金だったらやりやすいですよ。勝っても負けても会社持ちですから。もちろん真剣にやっている。だけど、自分のお金だと真剣さと共にビビりが入ってしまいます。
そう考えるとソフトバンクの孫(正義)さんとか、ユニクロの柳井(正)さんなどの創業者で成功している人は偉いと思います。本当に尊敬に値します。もちろんカルビーの創業者(松尾孝)も尊敬しています。私が入社する前に亡くなっていて面識はありませんが。