胸をなでおろした
旧知の共産党幹部
「とりあえず胸をなでおろした。仮にトランプ大統領が“一つの中国”という原則を放棄するような事態になれば、我々としては党の第19回大会を円満に迎え、成功させるなどという悠長なことを言っている場合ではなったからだ」
元宵節が過ぎ、即ち中国人民にとって最も大切な春節(旧正月)が終わり、中国社会が平常を取り戻しつつあった2月の中旬、対外政策を担当する旧知の共産党幹部が私にこう語った。
私にはこの言葉の持つ意味が大体理解できた。仮にそのような状況になった場合、中国政治・経済社会が陥る混乱ぶりは容易に想像できる。中国共産党としては自らが定義する“核心的利益”のど真ん中が脅かされるわけであるから、(台湾サイドの反応にもよるが)状況次第では台湾海峡における武力衝突や、米中断交の可能性すら否定できない。
そうなれば、中国経済・社会の在り方、政治イデオロギーを巡る文脈とロジックの作り方、国際社会における立ち位置、“西側諸国”との付き合い方、広範な新興国・途上国との距離感など、ほとんど全ての分野においてその前提が変わってくる。となれば、言うまでもなく、秋に開催予定の党大会で審議する議論や採択する文書にも根幹的な影響を及ぼすであろう。
ハリウッドをこよなく愛する映画ファン、米国の大学への進学を目標に掲げる親子、ウォールストリートやシリコンバレーを目指す若きエリート、マクドナルド、スターバックス、ウォールマート、アップルといったブランドが生活に染み込んで離れない市民たちに、“この状況”をどう説明するのだろうか。
「米国の帝国主義と覇権主義が我々の核心的利益を踏みにじった。そのような敵とは断じて闘う。いまこそ全中国人民が立ち上がり、一致団結し、中華民族の偉大なる復興というチャイナドリームを実現するときだ」
そんなスローガンだけで人民が納得し、世論を収拾できるほど昨今の中国社会は単純ではないだろう。いずれにせよ、米中武力衝突、国交断絶という事態が発生した後の党の第19回大会という局面を私は想像できなかった(もちろん、これから党大会までの間に米中間で何が起こるのかは分からない。前回コラムで提起したように、不確定要素は依然として存在する:中国共産党は日米首脳会談の成果をどう見ているのか。