「すべき」「こうあるべき」というストーリーが頭の中でふくらんでいくと、ついには鬱状態になってしまうことすらある。それは悪夢の中にいるようなもの。そんなとき、「ワーク」による問いかけで不快なストーリーを減らすことができる。
(連載第1回と、著者のインタビュー映像はこちら)
4 自分のストーリーに気づく
現実だと信じ込んでいる考えを、私はよく、「ストーリー」と呼んでいます。ストーリーは、過去や現在や未来についてのことであったり、ものごとがどうあるべきか、どうなる可能性があるか、なぜそうなのかということについてだったりします。
そういうストーリーが、一日に何百回となく私たちの頭の中に現れます。誰かが一言も発しないまま立ち上がり、部屋を出て行くとき。誰かが微笑まないとき。電話を折り返しかけてこないとき。上司の部屋に呼ばれたとき。パートナーが話しかけてくるときの声のトーン。
ストーリーというのは、検証や探求をしていないにもかかわらず、何らかの意味づけをしている考え方と言えます。私たちはふだん、たんなる考えであるということを意識すらしていません。
ひとつ、例を挙げてみましょう。私が自宅近くのレストランの化粧室に入ったときの話です。ちょうど個室から出てきたひとりの女性と出くわしたので、お互いに目を合わせて微笑みを交わしました。私がその個室に入ってドアを閉めると、その女性は歌を口ずさみながら、手を洗い始めます。「なんて素敵な声!」と私は思いました。ところが、彼女が去る音がしたとたん、便座が濡れていることに気がつきました。
「こんな無作法なこと信じられない」、「立って用を済ませたんじゃないかしら?」という考えが次から次へと浮かびます。挙句の果てに、「女装が好きな男性で、裏声で歌っていたのかも」という考えさえ浮かびました。彼女(彼)を追いかけていって、個室がどんなひどいことになっているか、言ってやろうとさえ思ったのです。私は便座を拭きながら、自分の言いたいことをすべて思い浮かべました。
ところが自分が用を終えてレバーを押したとたん、トイレから水が勢いよく吹き上がり、便座を水浸しにしてしまったのです。