好みや流行はときに
合理性を失い、暴走する

 好みや流行というものは、ときに合理性を失って暴走してしまうものだと著者は言う。しかし、繰り返すが流行りには乗っておいたほうがいい。星野源には絶対屈しないと拳を固めている女性がいたら、少し考え直したほうが得かもしれない。

 私見ではあるが、流行りに乗って臨機応変に好みを変える女性はモテる。それはオスたちがランナウェイ仮説に乗っかってマジョリティとなる子孫を求めているせいかもしれない。しかし、生物には常に多様性が必要なのだ。モテないものにはモテないなりの種全体での需要があり、受け皿となる戦略がある。

 他の大きなオスのハーレムに忍び込んで、ばれないようにちゃっかりと子孫を残すゾウアザラシ。立派なオスが活動する前の真夜中の時間帯から行動していち早くメスを獲得するカブトムシ。響く大きな声のオスの近くで待機してメスを横取りするウシガエル。メスに変装して縄張りに入ってくるブルーギルや他のオスから贈り物をもらって、そのままメスに渡しにいくガガンボモドキ。 どれも立派な生存戦略と言えるだろう。

 これが男らしくない、かっこ悪いという意見もあるかもしれない。だが大多数の好みに合わないからといって諦めること自体が、一番かっこ悪いのだ。

 モテるためにもがき続ける限り、オスはみんな男らしいのだ。実際に小さいオスの中には、体を大きくするためのエネルギーを節約している分、多くの精子をもつ生き物も多いという。「モテるためには命をかけて戦う――。これが、せつなくも美しいオスの美学なのである。」

メスはメスで
オスを選ぶ時の苦悩が…

 一方、メスはメスでオスを選ぶ時の苦悩がある。なにしろ、メスはオスと比べて生殖にかけるコストが高い。妊娠時や出産時はリスクが高いし、比較的少数の子供しか残せない。より後世に残る遺伝子はどれか、見た目や強さ、贈り物の大きさといったわずかな情報から推測しなければならない。

 人間であれば、これから出世するかどうか、子育てに協力的かどうか、浮気をしないかどうか、果ては義理の実家との関係はうまくいくかどうかまで様々な要因が絡んでくるからさらに複雑だ。つがうオスを選ぶことは、まさに一世一代のギャンブルである。

 オスとメスはどちらが得か?オスであることもメスであることもそれぞれの大変さがあることに疑う余地はない。読めば読むほど迷ってしまうかもしれない。すでにオスかメスに生まれてしまった我々は結論を出す必要はないだろう。

 ただ知っておく必要はある。全ての生き物はオスでもメスでも恋をすることに命をかけている。そこに損得なんて野暮じゃないだろうか。特にこれから恋をする若者たちに読んでほしい。自分なりの恋愛戦略を探すのにも役に立つこと間違いなしである。

(HONZ 篠原かをり)